BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜


33

 D−7からF−8。
 病院から工場へと、瀬野真由(女子12番:2班)と和帝二(男子5番:2班)は移動した。
 真由がついて来ているかどうか確認しながらも、和はスピードを殆ど緩めなかった…。
 工場内には、誰もいなかった。そこで待っていると和が信じていた片月真紘(女子6番:2班)すら。
 放送を聞いてから、工場に移動を始めた。それでは遅かったのだろうか? 病院に真由のけがを治療するために寄った間に真紘は移動したのか? それともそこで他の人間がいないか確かめた間に? この工場の部屋を回る間? もしかしてまだ辿りつけていないのか?
「真由、真紘はどこにいるかな…」
 森の中をまだ歩いているのだろう…。
 森の中には赤桐凌や、他のゲームに“乗った”人間達がいる。今この瞬間にも殺されているかもしれない…!
 彼女がもし、赤桐に見つかったら…。
 矢賀や真山も怖い。
 真紘は、襲われればひとたまりもないだろう…。
 スパーシヴM11“ミレイア”は俺が、俺の支給武器のS&W.M19と交換した。あっちの方が軽いから。自分の方が性能のより良い方を持って命を賭しても守ってやるから…。
 まぁ、結局意味のない行為だった…。
 あいつがちょっと軽いのを持っていて、生存確率が数%上がったとしても、何の関係もない。赤桐や矢賀になど、抵抗すら出来るわけがない。
 それに――俺が命を賭して…?
 笑わせる。いや、これは本当に自嘲する。こんなセリフは鏡夜が言うものだ。俺が言うよりも、ずっと信憑性があるし、似合う。俺にその約束を守れるほどの何かがあるとでも?
 今こうなっているのは、あの時俺が園村を殺してしまったショックで、言った一言のせいだ。自業自得。それでは済まないけれど…。
 俺は何をしていたのだろう?
 この最悪の状況下でも、俺は真紘を守ると決めたはずだ…。
 誰かを殺さずどうにか出来るとでも思っていたのか…?
 一度手放して、戻ってくるものがあるわけないのに…。
「真由、鏡夜のところに…。島に行こう…。」
 選択肢は2つ。俺と真由でこの島中、真紘を探して回る。
 もう一つは、鏡夜達とまず合流してから対策を考える。
 本当は、島中を探しても見つけたい。けれど、真由は危険にさらせない…。真由だけは、鏡夜の元に送り届けなければならない。
 鏡夜は鍵だ。このゲームを壊す、世界を変えるキーになる。
 真由を失くして、鏡夜は生きれないだろう。鏡夜にとって、真由は全てだから…。
――俺にとっての真紘が、同じように…。
「和くん、良いの?」
「良い。――行かないと、いけない…」
 探しても見つかる可能性は低い。
 真由が危ない。
 鏡夜の為に…。
 言い訳はなんとでもできる。けれど――、本当のところ俺はもう、諦めているのかもしれない。
 真紘が生きている可能性にも、自分の気持ちが結局片想いに終わる事にも…。
 こういう結末も、ありなのかもしれない、と…。
「でも、和くん…」
 昔から、真由はこういう時に多くは語らない。
 そういう言葉が、当事者に何の影響も及ぼさない事を、分かっているから…。
 実際、俺はもう、真由に何を言われようとも、この意思を変えないだろう。もう、後戻りはできない。俺は、真紘を探さないという選択をした時から、俺ではないのだから…。
 別の誰か。人の持つべきものを欠いている別の何か…。
――俺は死ぬだろう。
――真紘、お前は…出来れば生きていてほしい…。
――鏡夜と、真由、仁志にも、生きていてほしい。
――けど、俺はこのゲームが終わるまでは、生きられないはずだ…。
「出よう、ここを、真由…」
――ただ一つ…。
 もう一度、真紘。お前にまた会えたのなら…、今度こそ自分は、約束したい。
 本当は、今だって本当は――諦めたくないから…。
 自分を冷めて見つめるもう一人の自分が、必要なのだ。そうしなければ、俺は何も出来なくなってしまう。矛盾だらけで、全てが大切で…一番大切なのものだけを選ぶなんて事は…俺には、出来ないから。

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