BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
35
銃声が交錯した。
静寂が僅かの間続いて、真由がここから離れたソファーから顔をのぞかせた。ここから見る限りでは、何の変化もない…。
赤桐は少し呆けた感じで、こちらへの注意が若干緩んでいる。
すかさず、俺はソファーの陰から出ないよう、真由の元へと駆けた。急いで顔を引っ込めさせる。
銃声がして、後ろの階段の手すりに火花が散った。
真由、と声をかけると、大丈夫だと返事が返ってきた。
その時、玄関ホールに真由でも赤桐でもない声が響いた。俺の名前を呼んでいるようだ。
組み合う音が聞こえて、俺はソファーから顔を出した。
顔を出すのと同時に銃声がして、急いでまたソファーの陰に隠れたが、どうも今のはこちらを狙ったものではないらしい…。偶発的に銃弾が発射されたのだろう。
赤桐と、誰かが組み合っているのは分かった。しかし、加勢するべきか、様子を見るべきかをきちんと見極めないといけない…。
少しの間思案したが、考える必要はあまりないようだ。
少なくとも、今は赤桐を撃退する事が大事だし、俺の名前を呼んだ以上はどちらかと言えば味方のような気がする…。
名前など呼ばずに、ゲームに乗ったやつなら、赤桐が俺たちを倒して油断したところを襲うんじゃないだろうか…? そう、赤桐と言えど、連戦はキツイはずだし、俺たちを倒してすぐは、どうしても隙が生まれる。そこを狙う方が、懸命だと俺は思う。
しかし、こちらが騙しやすい相手だと考えて、わざと少し危険でも後々を考慮している、やる気のヤツなのかもしれない…。
俺たちを倒した後の赤桐の隙を狙うとしたら、最初の攻撃は外せない。
しかし、最初の一発目の攻撃で赤桐を仕留め切れないようなら、俺たちを見殺しにせずに共闘した方が楽だし、俺たちの信用を得ていた方が、味方としていられる点で、今後も有利だから…。
――いや、もしかしたら、赤桐とそいつの芝居か?
さらに考える前に、突如響いたぱららっという銃声は、俺のそんな考えを全て打ち壊した。その後に続く叫びは、その欠片すらも吹き飛ばす…。
「早く! 逃げてくれ!」
戸川俊(男子10番)が赤桐と組合いながら叫んでいた。
俺が今まで考えていたような事なんて、考えているわけがなかった。
戸川俊のことを俺はよく知らないけれど、逃げてくれと言いながら自分の死をもいとわずに、必死で赤桐と組み合っている人間だと言う事なら分かる。
それで十分だ。
口元には、血…。叫ぶ度、血霧が舞う…。
俺は戸川の目を見た。
それは、全てを託したような、そんな目に見えた。俺と真由に「自分の分も生きろ」と、陳腐なセリフだと分かっていて、言うような…。
ふと思った。
あの廃工場を出る時、もしかしたら俺はそんな目をしていたのだろうか…?
――真紘、真由、鏡夜、仁志…。お前たちだけは…と。そう決心した時の俺は、今の俊のような目をしていたのかと…。
赤桐が躊躇いを捨て、俺は真由の手を引いて、一気に陰を飛び出した。
ぱららっとさらに銃声がして、戸川の体の向こう側が見えたような気がした。
赤桐がこちらに銃口を向けたのも、見えた。その銃に、俊がしがみ付いたところまでも、見えた…。
後ろを振り返るのを止めて、真由の手を引いたまま走った。時間が迫っている。あの橋のあるエリアは、もう少しで禁止エリアに入る…。
――19時から7−H、21時から8−C、23時から2−Dです…。
金の行ったその放送を聞いて、俺と真由は少なからず焦った。しかし、時間的余裕を考えてから、15分前に向かおうと決めた…。そこに留まる人間も居なくなる頃だと読んだのだ。(結果、赤桐の足止めによって、間に合うかどうか分からないのだが…)
「和くん……」
真由が呼んだ。俺は構わずに走った。俊の事は考えたくはない…。
「和くん、止まってよ!」
速度を緩めようとする真由を、俺は引っ張り続けた。今止まれば、二度と鏡夜とは会えない…。この島の中で、鏡夜の救出と死とどちらが先に俺たちに辿り着くかだ。
俊が俺たちの命を繋いだ。だから俺が、お前の命を繋ぐ、真由。
「どうして!? 戸川くんは? 戸川くんを…。戸川くん……」
この島にいれば、死の方が確実に早く鏡夜よりも先に俺たちを見つけ出すだろう…。鏡夜の元へ行かなければ、逃れる事はできない…。
死は鏡夜ですらどうにも出来ない、人の結末だ。たった一つの終末点。
だからもちろん、鏡夜と合流しても――それでも死なない保障はないけど…。
「あたしは、和くん――、あたしは、鏡くんに会えなくても良いから!」
「だめだ!」
鏡夜が、最後の希望。真由が、鏡夜の最後の光。
「鏡夜が、鏡夜が待ってるんだ! 絶対お前を逝かせるもんか! 絶対走りきって貰う…止まるな!」
時間は止まらない。
俺たちだって、止まるものか…。