BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜


36

「赤桐ィ…!」
 戸川俊(男子10番)の叫びと共にもう一度だけイングラムが吼えると、彼は自身の血溜まりに倒れ伏した。ガラスが混じって、赤の中で光っている。
 まだ、息は続いていたが、赤桐は止めをさそうとはしなかった。後をあたしに任せたようだ。
「ひ、しくら……」
 仰向けの戸川が口を開いた。
 戸川の前に立って、声に耳を傾けた。――最後くらい、全て聞いてあげても良いじゃない?
「危険だ……、赤桐は、危ない…」
 赤桐は病院の中に残っている人間がいないかどうか確かめに、階段を登っていった。今は、いない…。
「あいつ、は……信用するな……」
――何? まだあたしを気遣うの?
 戸川が赤桐をシグ・ザウエルで撃とうとしていたあの時、あたしは茂みから――戸川を狙っていた。(元は織田進の支給武器だった)S&W.M29で。
 交錯した銃声は、あたしが戸川を撃ったものと、戸川が赤桐を撃ったものだ…。
 あたしが撃ったのは、戸川の肩口に命中した。戸川の手はそれで逸れて、赤桐に命中はしなかった。
 まあ要するに、あたしを信用して、後ろに警戒をおかなかったのがあなたのミスなのよ…戸川俊…。
「信用するなって、あたしと赤桐は同じ班なんだけど?」
 戸川は虚ろにこちらを見ながら言った。
「切り捨てられる、お前は……利用される」
 それは、織田進(男子4番:4班)が死ぬ前に思っていた事と同じ事だった。もちろん、戸川も菱倉も、そんな事は知らない。
「大丈夫よ…。」
 靴の底にまで、戸川の血が広がってきている。赤桐が階段を降りてくる足音が微かにした。
「大丈夫、あいつが危険な事も分かってる…。でも、戸川、あたしも危険なヤツなの。だから、似た者同士、お互い信用していないんだから、立場は一緒よ」
 戸川が目を見開いた…。
 それが死ぬ寸前まで感じていた激痛のせいか、あたしの言った事のせいなのかは、分からない。
 ただ愕然としたような表情だけが、永遠に戸川の顔に浮かんでいた。

【残り20人】

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