BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
37
島はまた、静かになった。
しかし、島に響いた銃撃戦の音は、島の人間の耳に残っている。
3−H、片月健(男子6番:3班)と、稀奈本次(女子9番:3班)は、寄り添いながら、その銃声が聞こえなくなるのを待った。じきに、銃声は聞こえなくなり、稀奈本次の泣き声だけが小さく聞こえるだけだった…。
2人は終わりを待っていた。
2人でいられる時間の終わりがいつ来るか知れないが、もう日常に戻れない事は確かだったから…。
片月健は、もしかしたら他の人間を殺してでも稀奈本だけは生かそうとしたかもしれない。
しかし、稀奈本がそれを決して望まない事を分かっていたからこそ、彼は稀奈本と共に、終わりを待った。
死の瞬間まで、どれだけ2人でいられるかだけを、考えていた…。
7−F、野中秀勝(男子15番:6班)と、神崎美佳(女子8番:6班)もまた、お互いの存在を確認し合いながら、静かになるのを待った。
また、誰かの命が消えていく事が、自分たちが生き延びる上で必要な事だという事に、歯痒さ感じながら…。
生き延びる、それは2人の意志だったけれど、実際に級友を殺す事は出来そうにもない。
この先に必ず、ごく親しい間柄の級友とも出会うだろう…。
けれど神崎にとって、片月真紘や瀬野真由や稀奈本次は、絶対に殺せようはずもない。
野中にとってもそれは同じで、和帝二や名村鏡夜、仁志雷也、真辺黎などとは敵として会えない事が分かっていた。
しかしもし、出会ったなら…そして、もし、24時間のタイムリミットが来たら…。自分たちは生か死かを選ばなければならない事も、同時に分かっていた。
どんな判断をするべきかは、まだわからないけれど。
10−I、分校。
加勢仁は――加瀬井臣として、戸川俊の死亡を書類に書き記した。死亡時間、19時49分。
次に名前を書くのが誰になるのか、それが真辺黎(男子18番:4班)や名村鏡夜でない事を願いながら。
そして同時に――なるべくなら、親しい人間同士、一緒にと班編成を組み換えた――今を過ごしている、A組の中の何組かのカップルたちを思いながら…。
けれど、同時に彼は専守防衛陸軍の幕僚監部戦闘実験担当官からよこされたキム・シャウジンと言う男についても観察をしていた。名前は音からしても偽名に違いないが…。
正体不明なこの男がいる事で、計画が失敗する可能性が出てきたのだ。
キムがいるせいでこちらは連絡を密には出来ない。連絡が取れなければ、計画は進まない。
もし、救出が出来なければ…。
対応策も考えながら、加勢はため息をついた。
――七原秋也は、無事に真辺瞬真を助け出したのだろうか…。
7−B、亞依騨島には、名村鏡夜と仁志雷也ともう一人がいた。
3人は放送前に着き、そして病院での銃撃戦の音を建物の中で聞いた。鏡夜は、2人に指示を出しながら、着々と脱出の準備を進めていた。
鏡夜はその最中の作業に関して、2人に質問をさせなかった。ただ、一言言った。「俺の特技を最大限に活用する」とだけ…。
兄等と同じように英才教育を成された鏡夜だったが、殊にコンピューターハッキングに関しての技術は――彼の独学によって――兄等の技術を大きく引き離していたのだ。
――その鮮やかさは、かの三村信史を七原秋也に思い起こさせるほどのものだった…。
ゆっくりと、計画が彼の頭で再生されている。不測の事態への対応、計画の不備がないかと確認し、場合のシュミレートを何度も行っていた。
その、不測の事態を未然に防ぐため、彼がこの作業に入る前、この島に来てすぐに橋の近くに設置した感知システムが今、早速その役目を果たしていた。
島に侵入者が来たと、闇の中で赤の光の点滅が知らせた。依騨島本島側の橋は、数分前に禁止エリアになった。その前に、誰かが来たらしい…。
この島へと向かう、橋へと…。