BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜



「ねぇ……、ママとパパは…どうしてけっこん、したの?」
 あたしは車を運転している父と、隣の助手席に座っている母に話しかけた。
「そうだなぁ…難しいね」
 笑いながら父は答えた。
「どうして…って言われると分からないけれど…真由もいつかわかる時が来るわよ」
 母が言う言葉に頷きながら父は後ろを振り返る。
 母も父と同じ様に後部席のあたしを見る。
 二人共本当に幸せそうだった。

 そんな両親の向こう側に、1台の車があったのをあたしは見た。
 車の中に居た人のなかでその1台を見たのはあたしだけ。
 その車は、多分さっき両親が後ろを向いた数秒後にぶつかって来たのだろう。
 だけど、あたしには笑っている両親の後ろからゆっくりとその車が、まるで悪魔のように忍び寄っていたように思えた。
 そして、その悪魔はあたしたちに向かってきた。


「――……ぁ…くま…」
 そう呟きながらあたしはさっきまで見ていた夢を忘れようとした。
 が、自分が居る場所は暗闇で忘れようも無かった。
「あたしが…悪いの……あたしが――」
 忘れる為、罪から逃れる為に両親への懺悔を口にしようとしたあたしだったが、あたしはその言葉を飲み込んだ。
――誰かがあたしの手を握っている。
「真由か?」
 そう聞いてきたのは名村鏡夜(男子11番)だった。
「そうだよ鏡くん…。で、手を持ってるのは?」
「あ…俺だよ。ごめん」
「ううん…良いよ、別に。それで…あたし達、どうなったの?」
 あたしは聞いた。
 そう、あたし達は卒業式の練習をする為に学校の体育館に居たはず。
――この広くて暗い場所がそうなの?
 窓は何かで塞がれていて、その隙間からしか光は入ってこない。
(その隙間からもほんの僅かな光しか入ってはこず、互いの顔も良よく分からなかった)
「多分…眠ってたんだ」
 そう言って、鏡くんは腕時計を見せてくれた。
[1/23 PM 11:40 "32s]
 11時40分? え…?
「鏡くん、あたしたちが体育館に来たのは1時20分位でしょ?」
「うん…だから俺達は10時間以上、眠っていた事になる」
「誰か…来ないの? だって、あたし達帰らないと…。先生達は誰も気付いてないの?」
――あたしは…また幸せな時間を、両親の分を奪って手に入れるの?
「先生達は気付いているのかも知れない。分からないけどね…。だけど、俺が一つ分かるのはここが、俺達の居た体育館じゃないって事だ。窓から明かりが入ってこない」
――そう言われれば変…。
 郊外だけど学校の上の山には県民体育館がある。
 そこは一日だってスケジュールが空いている事は無い…。
 これ位の光よりももっと多く県民体育館では電灯を使っている。
「なんで…?」
「鉄板のような物が、窓に打ち付けられている…」
――…? なんでそれだけであたし達の居た体育館じゃないって分かるの?
「さっき、舞台裏の方を見て来た。演説台の形が違った」
 あたしの考えを読んだかのように鏡くんは答える。
「そう…じゃあどこなのかな……」

「おぃ…きろよ…んざき」

 暗闇の中から声が聞こえてきた。
「真由…行ってみよう。」
 鏡くんに手を持ってもらったまま声の方に行く。

「起きろ、神崎。神崎、おい…起きろ。」
 さっきの声は野中秀勝(男子15番)が神崎美佳(女子8番)を起こそうと出していたようだった。
「野中くん…?」
 あたしの声に反応して振り向くような気配がした。
「瀬野か? もう一人は…――、」
「鏡夜だ、野中」
「鏡夜…どういう事や? これは…。わいら11時過ぎまで何してん?」
 そう言いながら野中も時計を見せる。
「さっきまで俺達は眠っていたんだ。多分…これは…」
――「これは…」何? 鏡くん。
「これは…何や? 鏡夜」
「……それより、神崎を起こす方が先だな」
 鏡くんはそう言って美佳の方を見る、けど…
「あたしは起きてる。だから言って、何なの? これは」

「野中、真由、神崎…。教えようか?」
 そう応えたのは和帝二(男子5番)だった。
「鏡夜…いずれ分かる事だし、言うといた方がええ」
 一緒に来たのか、仁志雷也(男子12番)の声もした。
「仁志、和、どういう事や? 何がどうなってんねや?」
 そう聞いた野中くんに応えたのは、和くんでも仁志くんでも鏡くんでもなく、一発の銃声。

――パンッ

 という音だけ体育館に響いた。
 その瞬間に体育館の明りが一斉に点く。


「全員! 起床だ、起きろ」
 聞き覚えのある声が共鳴音の無くなった体育館中にこれから起こる全ての出来事を運んできた。


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