BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜



「起床だ!」
 先程の大きな音の反響がやっと終わった後の体育館に大人の太い声が響く。
 どうやらそいつは、向かい側に居る耕作達の頭上から話し掛けてきているようだった。
 そいつの居る方へと少し首を上に傾けた俺だったが、ひんやりとした間隔に首を竦めた。
――首輪…?
 手を当てると手にもひんやりとした間隔が伝わった。
――ペットか…? 俺達は…。
 頭にポーンと何かが跳ねて来たが、何とかそれを押さえつけ、俺は観察を続けた。
 体育館屋上の通路に付いているらしい手摺の向こう側に、僅かに人影が見える…が、いきなり点けられたライトの光に俺の目はまだ慣れず、なんとか人のような形に見える程度だ。
 周りのクラスメート達は、さっきの銃声で一斉に目覚めていたが、まだこの状況をうまく把握出来ていない…。
 大きな音でいきなり目覚めさせられた事。目に飛び込んでくる強烈な光。首に付いているペットに付けているかのような首輪。立代の体育館ではない別の場所に居るらしい、という事。
 その全てが全員を混乱させているようでざわついている。
 大半のクラスメートは隣の人間と話していた。
 野中だけが体育館の真ん中を横切って、織田と見受けられるクラスメートへ歩いて行く。
 元々、それぞれが思い思いの場所に固まっていたから、他に動くクラスメートは居なかった。
「誰や…!?」
 先程歩いていた野中が、体育館の上から見下ろしている人間に気付いたらしく体育館の悲鳴とも聞こえるざわめきの中でが叫んだ。
 全員が野中の向いている方向を向く。
 上に居るそいつは答えもせずにただじっと見下ろしている様だった。
 しかし、ここからは遠くてなかなか見えない上に、ライトが邪魔で見えにくい。
――俺の推測が正しければ…あいつは担当官か…?
 しかし、その証明になる桃色のバッジは目を凝らしてもなかなか見えてこない。
 が、隣の真由がいち早く正体を察したらしく、息を呑む。
「そんな…先生なんですか!?」
 真由が叫ぶ。
――先生…。
「立代第二中学2−A組の諸君、私は新しく君達の担任になった。
なので君達に自己紹介をしよう――、」
 時間の流れが完全に外界とこの体育館はずれていた。
「――私の名前は加瀬井臣(かせいじん)だ」

「加勢せんせ…何してんねんや…?
ぁ、いや俺達もまだこんな所に居てるけど体育館でなにするんや…?」
 また、野中はざわめきの中で叫ぶ。
「俺は全員にお知らせがあるから来たんだ、野中」
――俺、か…。
 加勢は“私”って言ってたな…。
「――このクラスは今、亞依騨島に来ている」
「で、ここまで連れて来て何をするんだ?」
 体育館のほぼ中央に居た、矢賀大河(男子22番)が声を上げる。

「――お前等にはここで殺し合いをして貰う」

 外界との時間がずれてる、とかそんな物じゃない。
 今までの全てに俺等は手を振って行かないといけないらしい。
「新世紀少年教育改革法第六十八番プログラム、「BRゲーム」。
お前等は参加学級に選ばれたんだよ」


「今から、ルール説明を始める――」
 加勢が(いや、さっきの自己紹介で“加瀬井”って言ってたな)そう言うと体育館に足音が響いた。
 扉から加勢の居る側と俺達の頭上と合わせて10人程だろうか? 銃を持っている兵士が入って来た。
 その中には、一人だけ銃を持ていない大人も混ざっていた。
「――あ、そうそうもう一つあった。
彼が(そいつの方を向く加瀬井)新しい副担任、金星人先生だ」
――キムシャウジン…中国人か? に、しても適当な名前だ。異星人みたいなのは事実か、このゲームの主催側なんだから…。
「じゃ、説明を再開するぞ。このプログラムのルールは簡単だ。
プログラム開始から、終了まで、どんな方法を使っても良い、とにかくこのクラス42人の中の最後の1人になるまでお前らで殺しあってもらう」
 一気に言い切った加瀬井。
――くそっ…! あんな先生じゃなかったのに…。
(まあ、すぐにビビって授業を中断してしまうのもどうかとは思うが…。)

「説明はまだあるぞ!」
 少しだらけ始めた織田に声を掛けて今度はキムが話を始める。

「今、加瀬井先生が言ったのが今までのルールだ。
が、今回はちょっと違う、チーム戦だ。
全員に付けてある首輪、それの液晶に校舎を出たらランダムで数字が出てくる。横にあるボタンを押すと何班か喋ってくれるから、自分の班はすぐに分かるからな。
自分の班の人間だけは、殺さなくても良い。
ある班の班員しかこの島で生きていなければそこでゲームは終了だ。
最大で一班6名。生き残れるのも最大6名だ。
言っておくが、間違ってでも同じ班員を致死に至らしめた場合は、人間として出来ていません、と私達が判断し、首輪を爆破します。
仲間は大切に頑張れ。
さて、このゲームには基本的に反則は無いが、オレたち政府関係者に反抗する事と、この会場から逃亡することだけは禁止されてるからな。
そんな事をした奴は反逆罪として即刻処刑される。
そんな不忠な事をせず堂々と戦って優勝した奴には、総統陛下直筆の色紙が授与される。副賞として一生涯の生活保障もあるし、申し分ないだろ? 亡くなったクラスメートの遺族には慰安金を支給するから残った家族を心配する必要性は無い、精一杯闘え」
――家族、か…。既に手配を(葬式の、だ)始めそうな家族や、先に逝ってしまった家族も居るのだろう。
 キムは続ける。
「良いか!? お前らに装着している首輪からは特殊な電波が出ていて、お前らの居場所や生死をこちらが把握できるようになっている。泳いで逃げようとした場合や反逆行為を企てようとした場合、首輪を爆破して処刑するからな。
海上には見張りの船も用意されているから、万が一は無い。無駄な事は考えない事だ。
――あ、それと、首輪を強引に外そうとしても同様に首輪は爆発するしかけになってるからな…」
 さっきから首輪をいじっている杯谷春芳(男子17番)と阿部雅実(女子1番)は途端に首輪から手を離す。
 それからまた、キムの話が再開された。
「プログラム実行中には禁止エリアというものを定める。
禁止エリア内に生きている奴が居たらこれも無条件に首輪が爆発するから、気をつけろ。
この禁止エリアは2時間に1つずつ増える。それは6時間毎に行う放送で発表するからな。1時間は猶予が必ずあるからその間に移動しろ。
原則的に、最初の放送まで、禁止エリアはないが、ここ、俺たちが居る10−Kは例外だ。全員が出発した20分後には禁止エリアに指定する。
いつまでも、学校付近をうろうろして自滅するなよ。最低、200m離れれば大丈夫だ。この島の地図もここを出る時に渡す、そこに禁止エリアをメモしていけ。
ただし、出発後に校舎内に長時間留まっている奴らも無条件に処刑する。出発したら、さっさとここを離れろよ。
それから放送では、それまでに死んだ奴の名前も放送する。優勝者が決定した時も、放送で知らせるから安心しろ。
そして…これは重要だ。
やはり今までにも協力して脱出しようとした奴らが居た。
が、そんな事は止めた方が良い。
24時間連続して誰も死なないと時間切れというルールがあるからだ。
その際には全員の首輪が爆発して優勝者は無しになるからな。
これは最悪の結果だぞ。優勝者はナシ、最高6人も生き残れるのに自分が一緒に居たい他の班の奴と時間切れを選ぶなんてバカな話だ。
こうならないようにしっかりやれ。
生き残る方法は優勝しかないんだ。解かったか!?」
 キムが言い終わって暫くすると、加勢が口を開いた。
「それじゃあ1人ずつ、2分間隔で出発してもらうぞ。最初の1人は抽選で決める」
 そう言うと、教室の扉が開き箱を持った兵士が一人入ってきた。
 その箱の中に加勢は手をいれ、暫くの間ごそごそとやっていたが一枚の紙を取り出した。
「男子19番、真山鷹史」
 紙を加勢はこちらに向けながら言った。
“19”の文字がうっすらとだが、見える。
――真山か…。
 俺は体育館の端の方へ目をやった。
 いつも表情を中々出さない真山だから、今もさっぱりだ。
「この後は真山から番号順に男子女子とでてもらい教室を出たところで、デイパックを1つずつ渡す。
その中には若干の食料と地図と磁石、時計、懐中電灯、それと武器が入っている。
ただし武器はランダムで銃火器類から割り箸などのハズレ武器まである。
だから、女子男子、優劣関係なくどの班にも優勝チャンスがあると言う事だ。
今回は大半が当たりだから、中々どの班か当てるのは難しそうだな…。
では全員、最後まで諦めずに頑張れ」
 そう、キムが言い終わり静かに加勢が話し始めた。
「それでは、真山君出発してください。」


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