BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
9
先程の特徴的な音と、硝煙の匂いが立ち込めるなか、村田怜二(男子21番)の目の前には2つの物体が転がっていた。それらは今、自分が“人”という存在を、ゲームの終了を待つだけの“物”へ変えたものだった。
――お、おれのせいじゃ…ない。こ、こいつらが…悪かったんだ…。
村田は震えながらも、そう自分に言い聞かせた。
――こいつら、おれを…殺そうとするんだ…だから、仲間になるのも拒んだ…。それに…3班と…4班、だったじゃないか…。
強く銃を握り締めながら、繰り返した。何度も、何度も…。
――そもそも…敵同士、ここに居たのが…悪いんだ…。
息を荒立てながら思ううちに、おれは罪は相手にあったのだと確信した。
が…その確信は一気に揺らいだ。
「…村田! あんた、何してんのよ!」
後ろから声がして振り返ると、いつの間にか矢賀大河(男子22番)を越して、阿部雅実(女子1番)が居た。
「答えなさいよ…!」
「…だ、だって…こいつらが――」
そうだ、こいつらが悪い。おれは、何も悪くない――、
「――バカ…! あんた、自分が何をしたのか、分かってるの…!?」
おれの中の確信は早々に崩れ去った。海岸に砂で作った城の様に、言葉の波で一瞬にして塵と化した。
そうやって、今までもおれの世界は崩れてきた。
阿部や織田、保住、清水…その他の人間によって傷つけられて、少しずつ、小学校の頃から…。
それでも、おれは小学の頃は休まなかった。だけど中学に入ってから、それまで、おれを守っていた先生が居なくなって、よく休むようになった。
休んでいる間は暇なのでゲームに熱中する様になり、おれはさらにいじめられた。
「あんたは…バカよ! そんな奴だったなんて…思ってなかった! あいつらの言うとおりに、なってるのよ!?」
お前だって…お前だって――、
「――煩い…」
お前だって、俺を苛めてた。
「そうだ! お前だって、悪いんだ!」
俺はもう一度、さっきやった様に、手に持っていた物の引き金を阿部に向けて引いた。
またパラララララという(俺が覚えている限りでは、これはタイプライターに似ているのではないだろうか…)小気味の良い音がして、阿部が崩れた。それでも、俺は引き金を引いた。阿部は毬の様に何度も跳ねた。
けど――、その向こう側にはさらに人影があった。
「なんだよ…お前もかよ!」
また俺は引き金を引いた。その影は「うっ」と呻いて倒れた。
――みんな、敵なんだ!!! 殺してやる、殺してやる!!!
俺は決心した。けど、また、その城は崩れた。
それは、視界に先程自分が撃った阿部の死骸が入った瞬間だった。その光景に、決心など、本当の砂のように消し飛ぶ。
「な、内臓…?」
阿部の黒く染まった腹から溢れ出す血。そして、合間から見える灰色の物体。
――腸…?
その光景は頭を支配した。次々と恐怖という感情が湧き出てくる。怖い、怖い、怖い、怖い…。
「おれは………ぃ嫌だぁ!!!」
おれは周りに落ちているデイパックを無視し、手から零れ落ちそうなイングラムを辛うじて抱えて…その場から逃げ出した。
「死にたくない! 死にたくない…! 嫌だ、嫌だ…嫌だー!!!」