BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
16 「旅立ちの朝」
「男子17番、部坂昇の死亡を確認」
兵士が叫ぶ。
「ようやく1人目ですね」
「そうだな、武田。しかし、意外だったな。最初の1人を殺るのは野村か桃井あたりだと思っていたんだがな」
腕組みをしながらモニターを見つめる森嶋。
「まぁ、伏兵の登場っていうのも『プログラム』の醍醐味ではないでしょうか」
中田が口を開く。
「それも、そうだ。ところで、お前らは、誰を買った?」
唐突な一言。
この人は、よく分からない。、
部屋にいる何人かが顔をこわばらせる。
「私は、やはり本命の野村将です」
1人が答えたのを皮切りに、
「私は、対抗馬の千野を」
「女子最強と思われる桃井ななを」
「一匹狼の半田彰を」
「頭の切れる久慈を」
次々と答えが返ってきた。
結果は、以下のようになった。
野村 将 (7名:オッズ1位:大本命)
桃井 なな (3名:オッズ3位:武闘派少女)
千野 直正 (2名:オッズ2位:有力対抗馬)
半田 彰 (2名:オッズ4位:無表情の男)
北沢 勇矢 (1名:オッズ6位:天才サッカープレーヤー)
久慈 孔明 (1名:オッズ8位:クラス1の頭脳)
皆田 恭一 (1名:オッズ9位:クールな美少年)
「それで、武田と中田はどうなんだ?」
「私は中里大作を。殺されなくてホッとしましたよ」
苦笑いを浮かべる武田。
「私は、初仕事の準備で忙しくて、それどころでは」
中田は肩身が狭そうに言った。
「なんだ、中田は買わなかったのか。でも、その気持ちは分かるぞ。初めての担当官ってヤツも、辞令が来た夜は、なかなか寝付けなかったしな」
森嶋が中田の肩をポンポンと叩く。
「ところで、担当官は誰を買われたのですか?」
兵士たちの視線が集った。
「俺か。俺は渡会博と函館もみじ、それに安達隆一に20万ずつだ」
「えっ!? 渡会に函館、それに安達ですか!」
武田の眉がぴくりと動く。
3人とも、かなりの大穴だ。函館にいたってはオッズが1000倍を超えているはずだ。
「どうして、また?」
不思議そうに森嶋を見つめる兵士たち。
「いや、なんだか、生き残るような予感がしちまってな。優勝は分からんが、ラスト10名には必ず残る気がするんだな、これが。あっ、もちろん、こいつらは遊び。本命は、金村良和に100万だ」
「なるほど」
「それにしても、5番人気の金村を本命にするあたり、意外に穴党なのですかね?」
定時放送の準備を進める森嶋の姿を見ながら中田が呟く。
問いかけられた武田は答えることなく任務を再開した。
§
時計の針が5時40分を指し示していた。
外が徐々に明るくなっていく。
いつもと同じ夜明けだ。
唯一つ、『プログラム』の最中であることを除いては。
――果たして、私たちは次の朝を迎えることができるのだろうか。
大きな不安を抱えていた。
G3エリア内の高校の図書館。
目を覚ました彼女。
隣では瀬川絵里香(女子9番)が寝息を立てている。
他の者たちも、まだ夢の中だ。
彼女、白井由(女子7番)は物音を立てないように起き上がった。
手には、支給武器であるコルト キングコブラという拳銃が握られている。
――放送の前に起きられてよかった。
カウンターへと向かう。
そこでは、小山田寛子(女子4番)たちが見張りをしているはずだ。
「おはよう、由」
カウンターの蔭から加藤妙子(女子5番)が顔を出した。
「様子はどう?」
「誰も近づいて来なかったわ」
安藤初江(女子1番)が答えた。
「でも、4回も銃声が聞こえたの。何があったのか分からないけど、もしかしたら誰かが……」
険しい表情の寛子だ。
「放送前に来て正解だったわね」
「えっ!?」
寛子が目をパチクリさせた。
「だって、見張りなしは危ないでしょう」
「由……?」
声を震わせる寛子。
「分かってる、行きたいんでしょう」
全て分かっていた。
寛子が、1人でも多くのクラスメイトを助けようとすること。
絵里香が、自分たち9人の安全を最優先に考えて反対するであろうことも。
正義感の強い寛子のことだ。最小の放送で死者の名を聞いたなら、居ても立ってもいられなくなるだろう。
「見張りは私が引き継ぐわ」
コルト キングコブラを持ち上げてみせる。
「ごめん」
申し訳なさそうに呟く寛子。
「いいの。こうなることは、予想していたから。私は、寛子のそんなところも。絵里香の持っている、あなたとは正反対のものも、好きだから」
――もしかしたら、寛子と話をするのは、最後になるかもしれない。
寂しくてたまらない、止められるものなら止めたい。
でも、明日をも知れない『プログラム』の中だからこそ、寛子には寛子らしくあって欲しい。
もちろん、絵里香には絵里香らしく。
そして、自分は自分らしく生きたい。
――だから。
「早く行って、絵里香が起きちゃうよ。それから、これ」
上着のポケットから、自分への特別付録を取り出す。
「これって?」
「小型通信機らしいの。もう1つはクラスの誰かが持っているわ。私たちのグループ以外の誰かが、きっと役に立つよ」
「ホントにありがとう。必ず、生きて会おうね」
通信機を受け取った寛子が別れの言葉を述べた。
「うん」
寛子の後姿が、朝日に溶け込むように消えていく。
初江と妙子が、それに続いた。
3人を笑顔で見送った。
旅立ちの朝、それが最後の朝になるのか、それとも、未来を切り開くのか。
『プログラム』の第2幕が、静かに動き始めた。
<残り41人>