BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
18 「スペシャルアイテム」
E7、かつてこの島を支配した海賊の本拠だった城。戦国時代後半に破壊され、昭和に入ってから再建された城の近く。
小村典佳(女子6番)たちは、皆田恭一(男子19番)に導かれるまま、ここまでやって来た。
今思えば、誰にも邪魔されることなく合流できたのは幸運だった――実は真中真美子(女子18番)とニアミスしていたのだが、典佳には知る由もない。
「いい加減、暗号の意味を教えてよ」
しびれを切らせたのは井上あんり(女子2番)だ。
「まぁまぁ、焦らない焦らない。もう少しだしな」
恭一がなだめるように言った。
「そうよ、あんり。皆田君に任せておけば平気よ。それとも、前田君にでも任せてみる?」
「バカなこと言わないでよ。こんなヤツに任せていたら、とっくに死んでいるわ」
相変わらずのあんり。
「まぁ、その通りだな」
いつもと打って変わっておとなしいと思いきや、
「もっとも、お前なんかに任せていたら、合流する前に死んでいただろうけどな」
やっぱりいつも通りの前田利次(男子17番)。
「ホントに変わらないわね。『プログラム』の最中だなんて、信じられないくらいに」
湯浅波江(女子21番)が、ポツリと呟いた。
「おい、みんな、着いたぜ」
城門の前、恭一がニヤッと笑う。
「暗号の場所って、ここなの?」
恭一に任せておけば大丈夫だという想いは変わらないものの、数字の羅列と再建された城との関係がイマイチ理解できなかった。
「なぁ、恭一。いい加減、暗号の解き方、教えてくれよ」
利次も自力で解くことを諦めたようだ。
「教えたいのは山々だけどな。でも、その前に態勢を整えないといけない。利次、ちょっと、手を貸してくれ」
2人が力いっぱい押し込むと、音を立てて扉が開いた。
「どうやら、先客はいないようだぜ」
「どうして、わかるの?」
波江は疑いの目を向けている。こちらからしても半信半疑だ。
「下をよく見てみなって、扉を開けた跡がないぜ。それに、城ってヤツはな、門以外のところからは入ることができないように造られているものなんだよ。城壁でも登らない限りにはね」
自信たっぷりの説明に納得させられた。
「まぁ、用心には越したことはないから、武器くらいは構といたほうがいいかもな」
支給武器は、恭一の9mm拳銃、あんりのベレッタ タクティカル エリート、利次のアサルトライフル(セトメLC)、そして、波江のマテバ2007と5人中4人が銃器だ。
暗号に隠された支給品の正体はわからないが、それが何であれチーム戦力bPの座は揺るがないだろう。
加えて恭一の頭脳がある。
――きっと脱出できる。
そう確信していた。
「クソッ、鍵はついていないみたいだな」
利次が悔しそうに言った。
「まぁ、そう言うなって、そんなに甘くないぜ。世の中ってヤツはな。こっちには十分な地の利がある。城で防衛戦ができるんだからな。政府も、これ以上のアドバンテージは用意しないさ。行こうぜ」
恭一の号令のもと、本丸を目指し通路を登り始めた。
§
――半田くん!!
考えるよりも、体が先に動いていた。
彼女の親友が放った一撃は彰の背中を捕らえ、制服を切り裂いた。
刃先に肉を裂かれ、おびただしい量の血を流しながら彰の体が倒れる。
後ろで、桃井なな(女子19番)が、何か叫んでいたが、耳には届いてこない。
津久井藍(女子12番)は彰のもとへと駆けつけた。
「大丈夫!?」
呼びかけるが返事はない。
――どうして、なな。
2人が、ここへとやって来たのは、放送の始まる直前だった。
彰の腹部についた血痕に気づいたななは「彰は『プログラム』に乗っている」と言い出したのだ。
止めようとした。もしかしたら、ケガをした人を助けたときについた血かもしれない。
だが、ななは頑として聞かなかった。
目の前に倒れている彰。
背後の茂みの中にいる親友。
手の中にある鎖鎌。
――わたしは、わたしはどうしたらいいの?
なきたくなる気持ちを必死で抑える。
「半田くん」
体を揺するが反応はなかった。
――ウソだよね。
どうして、こんなことになるの。
「ウソだよね」
今度は口に出した。と、
――え!?
一瞬の出来事だった。
突然、起き上がる彰。
左腕を首に回され、右手でルガー ブラックホークを奪われた。
抵抗する暇もなく、銃の所有権が彰へと移っていった。
そして、
『パン!』
ためらうことなく放たれた銃弾が、ななの頭上、木の枝に命中した。
目の前で起こったことが、すぐには理解できない。
「へぇ〜、ルガー ブラックホークかぁ。初めて撃ったよ、外しちゃったけどね。でも、いいモノ、持ってるよね。これで撃たれなくて助かったよ。357マグナム弾だよ。いくら、これを着てても骨折しちゃったかもしれないからね」
学ランを脱ぎ捨てた下には、黒いベストのようなものが身につけられていた。
「さすがに、鎖鎌こときじゃびくともしないよ。防弾チョッキってヤツはね」
彰は、いつもの抑揚のない声で言った。
「やっぱり、服は洗っておかないとダメだね。部坂の返り血がつきっぱなし、誰かに見られた時のために上から女子用ジャージまで羽織ったのに、これじゃぁ意味ないや、ハハハハハ……。それから、小川と東野にも会ったよ。アイツら、どうしようとしていたと思う。2人で自殺しようとしていたんだぜ。笑っちまうよ」
彰の声がいつもと違うものに変わる。
「生きる気力のない人間なんて、殺しても楽しくないからね。適当に説得して生き残る気にさせてやったよ。次に会うのが楽しみでたまらないんだ。お互いをかばい合って生きようとする2人を少しずつ、なぶり殺しにしてやるんだ」
「ウソ! ウソだよね!!」
信じられない言葉だった。
「どうしちゃったの半田くん!!」
「フフッ、何言っているの? 今は『プログラム』の最中なんだよ。こっちの方が正常なんだ、正しいんだよ」
首に回していた腕を離し、正面へと回り込んでくる彰。
至近距離で銃を突きつけられていては、逃げ出しようもない。
この状況では、ななも手出しできないに違いなかった。
「どうして、どうしてなの?! 私の知っている半田くんは、そんな人じゃない!」
涙で視界が曇る。
「当たり前だよ」
彰の冷たい声。
「いつもの方が偽物なんだから。はじめまして、本物の半田彰だよ」
引き金に人差し指がかかる。
「イヤ! ヤメてよ!!」
――お願いだから正気に戻って。
祈りが通じたのか、人差し指を離してくれた。しかし、続いたのは更に狂気に満ちた言葉だった。
「ヤメて、じゃぁ、脱いでよ」
「えっ!?」
思わず、声を上げてしまう。
「命乞いするなら裸でしてよ。1回見てみたかったんだ」
その一言に凍りつかされた。
§
「これが、暗号の答えなのか!?」
戸惑いを含んだ利次の呟き。
「でも、どうやって開くのかしら」
冷静な波江。
「どうして、そういうバカっぽい反応しかできなの!」
いつのもように、利次にツッコミ(?)を入れるあんり。
――大丈夫、皆田君なら、これくらい簡単に開けられる。
頼もしそうに、恭一に見つめる典佳。
城の本丸に到着した5人の目の前には、背丈ほどの高さの重厚な扉が鎮座していた。
横には、コンピュータのキーボードのようなものがあり、キーの上にはアルファベットが記されている。
「なるほど、そういうことか」
おもむろにキーボードへと手を伸した恭一は何やら入力を始めた。
キーボードを叩く音が止まる。
少ししてから、電子音が響き、鍵が開錠された金属音が聞こえた。
「何をしたんだよ、恭一」
「あの暗号の答えと同じさ」
口ぶりからして恭一は暗号の答えを入力したらしい。
「もういいだろう、暗号の答えを教えてくれよ」
「オレたちの2つ下、中1レベル、小学生でも解けるヤツは解けるぜ。もう少し考えてみな。そのうち教えてやるから」
他力本願な利次を諭すように言った。
「わかったよ、仕方ないなぁ」
その時だ。
『パーン!』
5人の動きが止まる。
――誰かが、殺しあっているの!?
お互いの顔を見合わせる。
「銃声か、でも遠い。気にする程のことはないぜ」
恭一の一言で、みんなが我に返る。
こういう時の恭一はすごい、たった一言で安心感を与えてくれる。
「よし、早く小村さんの支給武器を確めようぜ」
扉に手をかけた恭一が力を込めると、ゆっくりと扉が開いた。
「えっ!」
「これって!?」
相変わらず、見事なまでのハモリを見せる利次とあんり。
波江は目を丸くしている。
「ははぁ、なるほど。こりゃあ、暗号を解いて手に入れる価値はあるな。スペシャルアイテムって、ヤツだぜ」
恭一が目を輝かせる。
多くの参加者が不安に押しつぶされそうになる『プログラム』。
だが、典佳はまったくと言っていいほどに、恐怖を感じてはいなかった。
その意味を知る人間が、このクラスに1人だけいた。
<残り41人>