BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

22 「葬送曲」

 G7の山中、富川幸和(男子12番)は、もしものために用意してきた工具をカバンから取り出し、準備を進めていた。
 159cmと小柄であり、運動神経もゼロという圧倒的な不利を抱え、『プログラム』に挑むはめになった幸和であったが、彼は自らの生存を確信していた。
 唯一の不安は、夜明けを待たなければならないことであったが、幸い襲撃を受けることなく朝を迎えることができた。
 なぜ、夜明けを待たなければならなかったか。それは、工具を用いての作業には充分な光が必要であるためだ。これから始めるのは超精密機器の分解なのだ。手元が見えない状況で行うのは自殺行為だ。
――ノモンハン20号か。
 鏡に映る自らの首につけられた首輪、接合部に慎重に工具の先端を滑り込ませていく。
――無理に分解しようとすると爆発する。
 森嶋の言葉。
 クラスメイトの大半に衝撃を与えた言葉だが、
――無理にじゃなくて、ちゃんとした方法でなら、大丈夫に決まってるだろう。
 幸和は冷静だった。
 彼の両親は、葬儀関係の会社を経営している――それが原因でいじめられたこともあり、両親の仕事が大嫌いだった。
 けれども、今は感謝していた。
 2年前のことだ。県内で行われた『プログラム』の犠牲者の遺体の回収と供養という公共事業の話が、彼の両親のもとへ舞い込んだ。
 その時、彼の両親は密かに首輪――ノモンハン20号のデータを盗み出した。
 見つかれば、その場で銃殺は免れないが、「息子のクラスが万が一『プログラム』に選ばれてしまったときのために」と危険を冒したのだ。
 そのデータは極秘ルートを通じて反政府組織に提供された――首輪の分解方法を幸和に教えることを条件に。
 そして、中2から中3に上がる前の春休み、中年の男が、彼の家を訪れた。
――あのおっさんは、名前は、確か、三村って言ったけっか。
 反政府組織の幹部であるというその男は、すばらしい技術と指導力の持ち主だった。
 機械に関してまったくの素人だった幸和を半月ばかりで首輪を分解できるレベルにまで育て上げた。
 男の説明によると、ノモンハン20号の中には、メインとサブの2つのシステムが搭載されていて、その間に複雑な配線が張り巡らされているらしい。
 だが、2つのシステムが相互リンクしているわけではないため、コツさえ掴めば簡単に分解できるのだ。
 幸和は慣れた手つきで、分解のプロセスを進めていく。
――慣れている? 当たり前だ、何百回、反復練習させられたと思う。
「何事においても、常に冷静(クール)にだ。このことを忘れるな」
 男が口癖のように言っていた言葉だ。
 しかし、幸和からしてみれば、
――そんなカッコつけんなって、そもそも、慣れちまったら、簡単な作業だろうが。
 開始から、わずか10分程度で、作業は最終段階へと入った。
――よし、最後にここのカバーを開くと、ローマ字で『ノモンハン20号』って書いてある。
 分解が終わった後は、禁止エリアである隣のH7エリアに隠れていて、タイミングを見計らって海へ逃げる。
 作業も作戦も、完璧なはずだった。
 盗聴機により、自分の行動を悟られないように声を殺していた。作業手順にも問題はなかった。
 だが、次の瞬間、幸和は凍りついた。
 カバーの下に書かれていた文字は、
「ロコウキョウ21号!?」
 思わず、声に出して読んでしまった。
 型が違えば、分解方法も当然違う。
 ということは、
「改良されているなんて聞いてないよ!」
 言ったか言わなかったかのタイミングで、首輪のマイクが爆発音を捉えた。

 彼が、葬送曲に送られるのと同時に、管理コンピュータの画面から、1つの点が消えた。

                         <1人退場:残り39人>


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