BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
23 「Battle Princess」
B7エリア、バス会社の社員寮付近。
9時には禁止エリアとなるB8エリアの公民館を後にした澄井愛美(女子8番)と田尾繁(男子9番)は、新たな隠れ家を求め、移動を続けていた。
絶え間なく響く――実際には、1時間に1度とか、その程度のレベルなのだろうが、そのように聞こえる銃声。
ついには、南方の山中から爆発音まで聞こえてきた。
――私と同じように、手榴弾を支給された人がいるのかな。それとも、
南の山中に位置するH7エリアは禁止エリアになっているのだ。誰かの首輪が爆発した音である可能性も否定できない。
頭と胴体が離れ離れになったクラスメイトの姿――想像したくもない。
すべてが悪夢としか言いようがない状況だ――しかし、これは現実なのだ。『プログラム』、正式名称『戦闘実験第68番プログラム』という忌わしい。
自分たちも、いつ襲われてもおかしくないのだ。恐怖が心を支配しようとしている。
幸い、ここまでは無事に来ることができたが、次の瞬間に何が起こるかなど分からない。
もう、誰も信じられない。
――疑わしきは、殺る気になっていると思え。
といったところだ。
――でも、疑うってことは、政府の思うツボってことなのよね。
正直、女子委員長の津久井藍(女子12番)は信用できる。でも、桃井なな(女子19番)は怖い。
同じことは、高川裕雄(男子10番)たちにも言える――といっても、武術をしている千野直正(男子11番)が怖いわけではない。彼は話してみると、純粋に武術を極めようとしている、とてもいい人だと分かる。
――もちろん、最初は怖かったけど。
むしろ問題は、久慈孔明(男子7番)だ。3人で一緒にいるときは別にして、1人のときは半田彰(男子15番)に近い印象だ。
クールというより、根暗というか、何を考えているのか分からない感じがして怖い。
彼らは、それぞれの友人と行動を共にしているのだろうか。
そして、何人かの中で1人だけが信用できない人、途中で裏切りそうな人、そんな人が混じっているグループと出会ったとき、私たちはどうすればいいのだろう。
――信じるべきを信じるのか? それとも、危険は徹底して排除するべきなのだろうか。
本当に難しい。
「澄井さん、ちょっと、中の様子を見てくるよ」
寮の入り口で繁が足を止めた。
「誰かいたら、最悪、戦わないといけないかもしれない。俺が見てくるから、建物の陰にでも隠れていて」
「わかったわ」
小さくうなずく。
「それと、もしもの時のために持っていて」
繁は、預けていた支給武器である4の手榴弾のうちの1つをディパックの中から取り出した。
「えっ!? でも、私」
「お願い、部坂みたいなことにはなって欲しくないから」
そう諭されては、受け取らないわけにもいかなかった。
「気をつけて」
「うん、澄井さんもね」
寮の中へと入っていく繁。
後に残された愛美が、繁の姿を見たのは、これが最後だった。
§
「それにしても、今日はツキがないわね」
塩見一中女子ジャージに身を包んだスポーティなショートヘアーの少女――戦姫が呟いた。
「まぁ、支給武器はアタリだったんだし、文句は言えないっか」
――もう、それにしても、部坂昇も香川圭もどうして、支給武器持ってないかなぁ。
部坂昇(男子17番)――と言っても、殺した相手の名前は放送で知ったのだが――は、元々、手ぶらだった。
香川圭(男子4番)のディパックは、安達隆一(男子1番)が、担いで行ってしまった。
――そうよ、安達隆一と真中真美子に逃げられちゃったんだ。
嫌なことを思い出してしまった。
――あーぁ、きっと、気分が悪いのが顔に出ちゃってるんだろうな。このクセ直さないと、せっかく生きて帰れても、人生、エンジョイ出来ないかも。やっぱり、カワイイ娘ぶってでも、イイ男捕まえないと。
「って、生きてここを出るのが先決ね」
思い出したように呟くと、辺りを見回す。
すると、近くの建物の陰に人影があった。
「ラッキー! 3人目、行くよ!」
傍らに置いていたH&K UMP――SMGだ――を肩に担ぎ、彼女は動き出した。
§
「田尾君?」
誰かが近づいて来る気配を感じ、愛美は振り返った。
そこには、見慣れた女子のクラスメイトの姿があった。彼女は、何やら角ばった箱のようなものを抱えている。
その名を呼ぼうとしたと、彼女が先に口を開いた。
「3人目」
反射的に右へと跳ぶ。
『パパパパパ……』
ギリギリで建物の陰へと体を滑り込ませる。
「へぇ、やるわね」
余裕の呟きだろうか。
だが、すぐには攻撃してこない。
初弾で仕留めるはずが失敗し、こちらの武器が何か分からない以上、無理はできないといったところなのだろう。
しかし、愛美の方は、警戒の必要もないほどの、いかんともし難い状況に陥っていた。
何とか命はあるものの、左腕、左肩、左脇腹と左半身にいくつもの銃弾を受けていた。
今すぐに病院に行くことができれば、あるいは助かるレベルかもしれないが、優勝者に決まるまで治療を受けることが許されない『プログラム』の中で生きていくのは不可能であるに違いない。
繁はどうしているのだろうか? 今の銃声を聞きつけて戻って来てくれるだろうか。
――でも、全速力で戻って来てくれても、間に合わないかな。
仮に、このまま攻撃されなかったとしても長くは持ちそうにないのだ。
――なら、私はどうすればいいの?
3人目、彼女はそう言った。
――3人目ってことは、部坂君の他にも、もう1人。それとも、放送の後で2人ってこと?
だが、そんなことはどうでもよかった。
今の愛美にできることは、1つだけなのだから。
――4人目の犠牲者だけは、出させない。
人を殺すのは怖かった。
でも、昇や自分のように、彼女に撃たれる人が、これ以上、出ないように。
彼女に、もう誰も殺させないために。
決意した愛美は、痛みさえも麻痺によって感じなくなった重たい体を無理やり動かす。
映画なんかで、兵士役の人がやっているように、手榴弾のピンを外した。
左腕は使い物になりそうになかったので、不本意ながら口を使った。
そして、陰から飛び出す。
「もう、誰も殺させない!」
手榴弾を投げつけようと振りかぶるが、それよりも早く、
『パパパパパ……』
引き金が引かれていた。
今度こそ、全身に銃弾を受けた愛美、手の中の手榴弾も銃弾に貫かれ爆発した。
おかげで、愛美には痛みを感じる暇さえなかった。
それが、彼女にとって幸運だったのか、不運だったのか。
それは誰にも分からない。
「あんりくらい運動神経のある相手だったら、危なかったわね。次からは、気をつけないと。それにしても、デイパックはあったのに、支給武器は、さっき、爆発しちゃったのよね。でも、まぁ、食料が手に入っただけ、よしとしないといけないわね」
戦姫は、すぐにその場を後にした――次の獲物を捜すために。
<1人退場:残り38人>