BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
24 「わなに誘う者」
G6エリア、森の中。
下田要一(男子8番)は、息を殺していた。
腕にはボウガンを抱えている。といっても、それは彼の支給武器ではなかった。
少し前の話になるが、隣のG7エリアで爆発音がしたのだ。
何か、とんでもないことが起こったのではないか。
そう思った要一は、様子を見に行くことにした。
反政府組織の攻撃で『プログラム』中止なんてことにならないかという淡い期待を抱いたりもした。
しかし、G7エリアを見回っても、爆発の原因になるような物を見つけることはできなかった。
長時間にわたって動き回るのは危険だと判断した――だって、いつ誰に襲われるかわからないじゃないか――要一は、元の場所へと戻ることにしたのだ。
その途中、地面に落ちていたのが、このボウガンなのだ。普通の人間なら、「持ち主はどうしたのだろう? 爆発に巻き込まれたのか」などと考えるところだが、要一は単純に「思わぬ収穫だ」と喜んでいた。
というわけで、新しい武器を手に入れた要一は、中止になればいいと思っていた、それまでとは打って変わって、俄然、殺る気になっていた。
もちろん「出来れば拳銃がよかったけど、飛び道具が欲しかったんだ」という彼の事情も大きく絡んではいたのだが。
ちなみに、問題のボウガンは富川和幸(男子12番)が「自分には不要だ」と放置した物だったが、要一の知るところではない。
「それにしても、早く誰か通らないかな」
期待に満ちた目で辺りを窺う。
この場所に意気揚々と戻って来た要一は、支給武器である『トラップ作成セット』を組み上げた。この支給武器は、その名の通り、デイパックの中に入っている数種の部品を組み合わせることにより、トラップを作ることが可能となる。作製できるトラップは、猟師なんかがよく使う、獲物が通ると足を挟んで捕らえるタイプのものだ
しかし、問題があった。園芸部に所属する要一は、所属している部から予測できる通りに、運動神経はイマイチで、相手を動けなくしたからといって、接近戦で倒せる自信はなかった。
だが、ボウガンを得たことで、その問題は解決された。動けなくなった相手を接近戦で倒すのではなく、遠くから射るのだ。
拳銃に比べれば、威力に劣るが、動けない相手を倒すだけなら十分だろう。
後は、罠かかった相手の支給武器次第だ。
拳銃でも手に入れば、次からはかかった相手を撃ち殺せばいい。
使える武器が手に入らなければ、手に入るまでボウガンで頑張ればいい。
矢は10本しかないが、死体から引き抜けば、何度でも使えるだろう。
――見てろよ。
クラスメイトの顔を思い起こす。
みんな、園芸部で、運動も苦手な自分のことをオタクだとか、暗いヤツだとか、散々、バカにしてくれている。
口に出すのは一部の人間だけだが、みんな、心の中では要一をバカにしている違いない。
態度や視線が、それを物語っている。
例えば、文化祭の準備。クラスの一員として、何か手伝いたかったのだが、話しかけても無視され、
「部で出展する花の世話が忙しいだろうから、無理にしてくれなくてもいいよ」
やっと、答えてくれた人の言葉も、役割をくれるものではなった。
――きっと、あんな気持ち悪いヤツに、展示物を触られたくない。
そんなふうに思っているに決まっている。
だから、皆殺しにして今までの恨みを晴らしてやるんだ。
――好都合なことに、散々、冷たくしてくれたお蔭で、お前らを殺すことに心の痛みは感じなくて済むしな。むしろ、うれしいくらいだ。
北沢、皆田、ちょっとばっかり、運動神経がいいからって、いい気になるなよ。
久慈、半田、1人の時、いつも無表情のお前らの方が、俺よりよっぽど気持ち悪いぞ。
山北、井上、あからさまに、人を無視するんじゃねぇよ。
津久井、瀬川、わざとらしく話しかけてくるな。
――可哀想だから話しかけてやっているなんて、ふざけるな。
「お前らなんか、大嫌いだ!」
ボウガンを持つ手に力を込めた。
だが、彼は気づいていなかった。
クラスメイトが遠ざかって行く原因は、運動が苦手であることでも、園芸部であることでもなく、彼のこの歪んだ性格にあるということに。
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