BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
26 「欠けた仲間」
G3エリア、高校の図書館。
「そう」
小山田寛子(女子4番)たちの行動について、白井由(女子7番)から聞いた瀬川絵里香(女子9番)の反応は、素っ気ないものだった。
――何か、言いたいことはないの。
根岸美里(女子14番)は、こちらの方が大切というように支給武器であるBUL IMPACTの説明書に目を落としたままだ。
いつもと、変わらない絵理香の姿。
何もなかったような態度。
――本当にないの。
口から出そうになる言葉。
でも、聞くのは止めておくことにした。
絵理香が読んでいたのは、弾の込め方や撃ち方のページではなく、製造会社の歴史や設計者のプロフィールのページだと分かったからだ。
分かっていたこととはいえ、寂しくなってしまう。
元々、意見の違う寛子と絵里香。
こういう局面では、一緒に行動できるはずもないと。
――分かっていたけど、せっかくこの『プログラム』、優勝者1人しか生き残ることの出来ない『プログラム』の中で、9人もの人間が信頼し合って集まれたのに。
どうして、寛子たちは行ってしまったのだろう。
友人を裏切り、命を奪い――そして、最後の1人に残った者だけが、生きることの出来る『プログラム』。
辺りが地獄絵図と化そうとしている中、ささやかな平穏のある場所を捨てて。
殺る気になっていない人を護る。
脱出するために仲間を集めたい。
クラスの中には、信用できる人も大勢いる。
――でも、寛子は、そのために人を殺せるの。
あなたと一緒に行った、妙子(加藤妙子:女子5番)を、初江(安東初江:女子1番)を護ることが出来るの。
桃井なな(女子19番)が、半田彰(男子15番)が殺る気になっていたとしても、
――あなたは護れるの?
直接、問いかける術はない。
聞けたとしても、
「じゃぁ、9人で固まっていたとして、桃井さんに、半田君に勝てるの?」
そう聞き返されるだろう。
9対1。でも、桃井なな相手では、問題にもされないだろう。
幼い頃から武術で鍛えられた彼女の精神と肉体。
対するこちらは、素人の集まり。
運動神経で考えても、全員が文科系だ。
敵うはずがない。
一方の半田彰。
運動神経は人並み程度だ。
しかし、頭のキレ具合はとんでもない。何をしでかしてくれるのか、まったく予想もつかない。
9対1でも、不確実なのだ。
でも、寛子は3対1で行こうというのだ。
とても危険に思える。
だが、彼女にとっては、それは、3対1ではないのだろう。
彼女たちには、仲間がいる――これから、集まるはずの。
野村将(男子14番)がいて、千野直正(男子11番)と久慈孔明(男子7番)がいて、皆田恭一(男子19番)もいる。
彼らがいれば、桃井ななが、半田彰が『プログラム』に乗っていたとしても、まったく心配する必要はないのだろう。
逆に、2人が乗っていなかったとしたら、みんなで協力することができたなら、脱出も夢ではないかもしれない。
だが、そう上手くいくだろうか。
繰り返し聞こえる銃声。
森嶋の「相手が悪かったな」という言葉。
間違いなく乗っているのだ。クラスメイトの中の何人かは――この『プログラム』に。
「これ、何なのかしら」
野中遥(女子15番)は、ディパックを開くなり声を上げた。
「どうしたの?」
小野田麻由(女子3番)がかけつけた。
絵里香は、相変わらず読書という名の気晴らしにふけっている。
千田蘭(女子10番)と由は、少し離れたカウンターの方だ。
遥の手には、何やらトランシーバーにも似た黒っぽい四角い物体が握られていた。
「通信機なのかな、由に支給されたみたいな」
由に支給された通信機、クラスの誰かが対となる物をもっている。それが寛子に託されたことは聞いていた。
「でも、あれって付録なんじゃないの。これだけしか入ってなかったのよね」
3人で遥のデイパックを探るが、他の武器らしい物は入っていなかった。
「何か、特別な機械なのよ」
「そうなのかな」
「うん、きっとそうよ」
「ところで、2人の支給武器は何なの」
遥の問いかけ、
「私は、これみたい」
麻由が、長細いホースのついたタンクのような物を持ち上げる。
「火炎放射器っていうのかな、中に濃縮ガスが入っているらしいの」
「美里は?」
「私のは、これよ」
直方体の物体の一面にディスプレイが取り付けられている。
見た目は、小型テレビといった趣だ。
「何なの?」
「これはね」
スイッチを入れると、ディスプレイに地図のような物と6つの赤い点が映し出された。
「首輪探知機っていうの」
「じゃぁ、この6つの点が私たち」
「うん、青が男子で赤が女子、個人の区別までは付けられないんだけどね」
支給武器が、これであると知った時には、とても便利だと思った。
誰かが近づいて来るのが分かるのだ。
危険に対して、未然に対処することが可能になる。
首に付けられている忌々しい首輪のお蔭であることを差し引いても、この便利さには変えられない。
「じゃぁ、この点が絵里香で、こっちが蘭と由なのね」
「うん」
「それじゃあ、この青い点は?」
ディスプレイを覗き込むと、端の方に青い点が見えた。
「男子の誰かなんだよね」
「そのはずだけど」
と、青い点が急速に動き始める。
「えっ!」
驚いている間にも、ものすごい勢いで近づいてくる。
これは、マズイ!!
「誰か来るわ!」
叫ぶ――由と蘭が身構える。
『パラララララ……』
『シャリャリャリャ……』
出入り口のガラス扉が砕ける。
戦闘に備えて倒しておいた机の陰に飛び込む。
『パン、パン』
絵里香のBLU IMPACTが火を吹く。
『パラララララ……』
机の表面を銃弾が叩く。
『タン、タン』
今度は、由がコルト キングコブラの引き金を引いた。
『タタタタタ……』
蘭もUZIピストルを連射する。
これでは、相手も動けない。
だが、いつまでも撃ち続けることは出来ない――弾切れというやつがある、当然ながら。
相手が近づいて来ないように、撃ち続けるしかないことらと、必要最小限の発砲に抑えている様子の相手、どちらが先に危うくなるかは明らかだ。
もちろん、初戦闘のこちら対して、あちらがこれまでの戦闘で弾を消費している可能性もあるが。
ディスプレイに目を落とす。
動きはない。
「大丈夫、近づいては来れないみたい」
絵里香に告げる。
3人が、銃撃を止める。
と、青い点が動き出す。
「また、動いたわ」
絵里香たちが身構える。
しかし、青い点はあさっての方向へと進んで行く。
「えっ!」
一瞬、戸惑う。が、
その意図を理解するのに時間はかからなかった。
「裏に回ったわ!」
『パラララララ……』
熱いものが体をかすめ、首輪探知機のディスプレイを砕いた。
体に当たらなかったのが、奇跡のように思えた。
今、欠けた仲間への心配よりも、新たに仲間が欠けることがないように、どうすべきなのか。
事態は風雲急を告げていた。
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