BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

32 「動き出した脅威」

 G7エリア、山中。渡会博(男子21番)は辺りを物色していた。
 傍らに置いてあるディパックには支給武器であるスナイパーライフル、アキュラシーが立てかけられている。
 桃井なな(女子19番)たちを狙撃したのは彼だったのだ。
「もう少し、使えるものならな」
 アキュラシーを睨んだ。博は運動神経ではクラスメイトより劣る。スナイパーライフルでは接近戦というわけにもいかない。
「運動部、入っときゃよかったかな」
 科学部に入部したことを後悔したくもなったが、今更どうしようもないことだ。
 彼には2つの趣味がある。1つ目は科学の実験。科学部に入ったのも、科学者のよく着ている白衣への憧れからだ。
――『プログラム』では役に立たないけどな。
 もう1つの趣味は『サバイバルゲーム』、こちらはとても有用だ。サバイバルゲームとは参加者を集め、実弾の代わりに血のり弾を使用して戦う、模擬戦闘のようなものだ。中学1年の時にたまたま見たテレビ番組でそれを知った彼は、たちまち、とりこになっていた。軍用物資を生産する工場に勤めていた父親も理解してくれ、色々とレクチャーしてくれるようになった。
 本戦に初めて参加したのは、去年、見事な活躍で自軍を勝利に導いた。それからというもの、休みの日には必ずと言っていいほど『サバイバルゲーム』に参加してきた。『プログラム』に選ばれたと知った時も、恐怖はなかった。模擬といっても、戦闘を経験したことのある自分が素人同然のクラスメイトに負けるはずがない。
 出発が1番で、支給武器がアサルトライフルかSMGあたりなら、出入り口で待ち伏せして全員殺してしまおうと考えていた。不運にも出発順が後ろから4番目だったために叶わなかったが、支給武器がライフルであったことで「優勝はもらった」と思った。
 しかし、ライフルはライフルでもスナパーライフルだったのだ。お蔭で、山を動き回りながら狙撃対象を捜し回るという地味な戦い方を余儀なくされていたが、実弾版のサバイバルゲームを楽しみたかった彼にとっては苦痛でしかなかった。
――まったく、狙撃なんて焦れったいんだよ。
 毒つくが、やめるわけにもいかない。『プログラム』の中で、戦いをやめることは死を意味する。
 幸いにも、支給武器が銃ではないという最悪の事態は免れた。アサルトライフルかSMGが欲しいなら奪えばいい。持ち主を狙撃して、殺してしまう。
――そうすればいい。
 桃井ななを狙撃したのも、彼女なら何人かを殺して複数の武器を手に入れているのではないかと思ったからだ。
 見つけてから、すぐに撃った。
 しかし、今は別の相手を捜している。『プログラム』に乗らずに、津久井藍(女子12番)と行動を共にしている彼女を倒しても意味がない。遠方からの狙撃のため、ななを倒せたとしても藍に2人分の支給武器を持って行かれてしまうだろう。
 陰に入られてしまえば、手が出せなくなる。適度な距離で、近くに身を隠せない場所を歩いている女生徒なんかがいたらいいのに。
「って、いるわけないよな」
 などと言いながら、辺りを見回す。すると、少し離れたところを歩く女生徒の姿があった。しかも、片側は斜面で逃げ場はない。なんという幸運だろうか、これを逃す手はない。
――なんだ、世の中、意外と都合のいいものだな。
 ディパックに立てかけてあったアキュラシーを手に取り、慣れた手つきでセッティングする。後姿のため、女生徒が誰かまでは分からない。
――まぁ、分からない方がいいけどな。
 誰かわかってしまえば、動揺してしまうかもしれない。
――実弾が当たれば、相手は死んでしまう。
 引き金に手をかけ、狙いを定める。
――命がけのサバイバルゲームか。
「いいだろう、乗ってやるよ」
 引き金を引く。暗殺などでも使用されるスナイパーライフルだけに、発砲音はとても小さい。いつものサバイバルゲームと変わらない銃撃、ただ、今回は血のり弾ではない。
 そして、実弾を使用していることが彼の感覚を少しだけ狂わせた。一発で仕留めようと、心臓を狙った銃弾は30cmばかり左へとそれてしまい、彼女の左腕をかすめたのだ。
「外したか」
 彼は舌打ちした。2発目を撃とうと、狙いを定めなおす。
と、撃たれた衝撃からだろう、彼女がバランスを崩した。そして、斜面を転がり落ちてしまったのだ。
「マジかよ」
 彼は走った。ディパックは、彼女の支給武器はどうなっただろうか。一緒に斜面の下では困る。
 急いで、その中でも、周りに気を配りながら移動した。
――この辺りかな。
 彼女が被弾した場所にたどり着いた。まずはディパックを探す。支給武器をディパックから出して持っていた可能性もあるが、大きな物から探す方が手っ取り早い。中に入っていなかったとしても、近くに落ちている可能性も高いのだ。
 その方が手間もかからない。彼の経験がそう告げていた。
 目を凝らす、すると、斜面の途中の木に何かが引っかかっているのが見えた。
慎重に下っていくと、それは彼の目的の物だった。
――いい武器を頼む。
 ファスナーを開いた。中に入っていた物を見て、彼はほほ笑んだ。64式自動小銃、アサルトライフルだ。
「よし、これさえあれば、優勝は俺のものだ」

 彼は高らかに優勝を宣言した後、斜面を転がり落ちた女生徒の生死を確かめることもなく立ち去った。

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