BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

33 「失った者の答え」

 C6エリア、山中。
 田尾繁(男子9番)は支給武器である拳銃――スマイソンを見つめていた。
 放送で呼ばれた澄井愛美(女子9番)の名。覚悟していたとはいえ、もしかしたらという思いも断たれてしまった。
「でも、仕方なかったんだよ」
 苦々しい口調で、言い訳のように呟く。社員寮の中で聞いた銃声、恐る恐る覗いた窓の外に見えたのは、愛美が蜂の巣にされる瞬間だった。
 怖くなった彼は、寮の裏口から一目散に逃げてきたのだ。
「マシンガンなんて、武器は1人1人違うって言っても、差がありすぎだろう」
 毒つきたくもなる。
――これから、どうしたらいいのだろう。
 手元にあるのは、スマイソンの他には手榴弾が3つだけだ。マシンガンを持った人間と争えるとは、とても思えない。
――昇、澄井さん、俺は、どうしたらいいのかな?
 心の中で問いかける、もう、この世にはいない2人に。
 知り合ったのは入学したばかりの頃だった。
 たまたま、近くの席だった昇に自己紹介し合い、お互いに音楽好きだと知って意気投合したのがきかっけだった。バンド部に入部した昇とブラスバンド部に入部した繁、入った部は違ったけれど友情は変わらなかった。そこに、繁と同じブラスバンド部員だった愛美が加わったのだ。
 繁にとって2人は本当に大切な友人だった。毎日のように音楽について語り合った。

 昼休みの教室。
「俺はやっぱりプロになりたいよ。文化祭の時に、音楽室で演奏してて思ったんだ。もっと、大勢の前で演奏したいって」
 目を輝かせる昇。
「そうか、俺も同感だよ。でも、バンドでデビューとなると退廃音楽の規制に引っかかってしまうんじゃないのか」
「そうよ、強制収容所送りよ」
 みんなに聞こえないように愛美が小さく呟いた。
「大丈夫、俺が目指しているのはフォークギターの弾き語りだよ。そもそも、俺はロックだっけ、退廃音楽の正式名称は」
「そうだよ」
「そのロックっての、好きじゃないんだ」
 意外な話だった。バンドをやる人は、みんなロックが好きなものだと思っていた。
「俺は、どうも、あのエレキギターの電子音が苦手で、雑音にしか聞こえないんだ。先生に隠れて一生懸命練習している奴らには悪いんだけどね」
 昇は、バツが悪そうに笑った。
「別に悪いことじゃないよ。だって、人には好みがあるんだから、嫌いなものは嫌いって言っていいと思う。部坂君はロックが嫌いでも、練習をやめてって言ったりはしないんでしょう。有無を言わさず禁止にする政府とは違うよ」
「ありがとう、澄井さん。それで、とにかく、話はそれちゃったけれど、フォークソングでヒット曲を生み出すのが夢なんだ」
「そうなんだ、私も同じよ。私も音楽で食べられたらうれしいな。スタジオのメカニックとか、裏方の仕事で良いから」
 愛美が控えめに言った。

 あれはいつのことだっただろう、よく思い出せない。あの日、語り合った音楽関係の仕事に就きたいという共通の夢。だが、2人は叶えることなく、逝ってしまった。
 『プログラム』に選ばれたと宣告されても、2人と殺しあうことは考えられなかった。何とか、3人一緒に生き残ることはできないものか。優勝者の枠は1つしかない以上、必然的に「脱出」という手段が必要となる。首輪を分解できないだろうか、本部のコンピュータを破壊できないだろうか、色々考えたが名案は浮かばない。
 それどころか。1人きりになってしまった。
――こうなったら、俺1人でも生き残って、2人の分も夢を叶えるからね。
 心の中で呟く、その時だ。
――うん?
 何かが、引っかかった。大切なことを忘れているような気がした。違和感の原因を突き止めようと、自分の考えていたことを復唱する。
――こうなったら、俺1人でも。
「そうだ、1人だ。もう、1人なんだ!」
 ハッとした。今まで気づいていなかったのだ。3人で生き残る方法を考え続けてきたが、自分はもう1人なのだ。ならば、脱出以外にも生きて元の生活に戻る方法があるではないか。
――そうだ、優勝してしまえばいいんだ!
 おまけに優勝者は、生涯の生活が保障される。ヒット曲を生み出せなかったとしても、一生ミュージシャンとして生きることができる。
 こうなると今まで悩んでいたことが嘘のように楽な気持ちになれた。
 拳銃一丁では、マシンガンとは殺り合えないというマイナス思考も、マシンガンを持っている奴が野村や千野などと殺り合って傷ついたところを倒せば良いというプラス思考へと変わった。
 むしろ、ノロマな女子でいい武器を支給されている奴がいたら、奪ってしまえばいい。支給武器が拳銃ではない――例えば、ナイフの奴がいたら、頭数減らしに殺してやればいい。
――よし、そうだ。乗ってやればいいんだ。
「仲間以外なら殺せる」
 決意は固まった。早速、獲物を求めて動き出すことにする。
 周囲は山の斜面をぬうように山道が続いている。舗装されているところもあれば、されていないところもあるという田舎道だったが、車1台通れるほどの幅は常に確保されている。一帯の林の木々が規則的に並んでいることと合わせて考えれば、林業が営まれている人工林のようだ。
 そんなことを考えながら目を凝らすと、等間隔で並ぶ間、百メートルくらい先に男子生徒の姿が見えた。
「よし、見つけた」
 彼は、1人目の獲物に狙いを定めた。

 仲間を失い、その向こう側に『プログラム』に乗るという答えを見い出した彼の行く先に待つものはなんなのか。
 今は誰も知らなかった。


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