BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
35 「わなに溺れる者」
G6エリア、森の中。そこにはC6エリアの人工的な森とは異なり、うっそうとした雑木林が広がっていた。その中に身を潜め、下田要一(男子6番)は罠に獲物がかかるのを待っていた。
――それにしても、誰も通りやがらないぜ。
1人で行動していた要一は十分な睡眠を取ることもできないためにイライラしており、疲労も限界を迎えつつあった。
だが、諦めるわけにはいかない。散々、自分をバカにしてきた奴らへの復讐をなんとしても成し遂げてやるのだ。
しかし、いくら頑張ろうとしても、眠気という敵に打ち勝つのは難しい。おまけにコンプレックスを感じるほどのレベルの体力だ。瞼が何度も落ちて来てしまう。
――クソッ!
注意力も散漫になりつつあった、
その時だ。
金属同士のぶつかる音、そして、何かが草むらに倒れる音が聞こえた。
――かかった。
一気に覚醒した。わなにかかったのだろう、男子生徒がしゃがみ込んでいた。
誰だろうと、目を凝らせは、それは野村将(男子14番)だった。
――最高だぜ。
ボウガンを構える。クラスで1、2の運動神経を誇る将、おまけに勉強もできる。その上に長身で、顔が良いとくれば、正しく要一の1番嫌いなタイプだ。
そして、何より許せないのは、自分に向けられるゴミでも見ているような冷たい視線だ。ずっと、復讐したかった。
だが、何をしても敵わなかったのだ。運動、勉強はもちろんのこと、意気込んで臨んだ理科の草花に関する発表会でも、将は自分を上回って見せた。
数々の屈辱。
――その全てが過去になる。
やっと、復讐の時がおとずれたのだ。
――俺の圧倒的優位を見ろ。
奴は片足をわなに挟まれ、動くことさえできない。
俺はボウガンの矢を射るだけでいい。
――終わりだな、野村将。
矢を射る。矢は、逸れず、曲がらず、将の体を捕らえるはずだった。
――なに!
なんと、将は体をひねり、矢をかわしてしまったのだ。
――まぁ、1回くらい、奇跡が起こることもある。今度こそ、終わりだ。
2射目。
だが、これもかわされてしまう。
――どうなっていやがるんだ。でも、そう何度もかわせるものか。
ボウガンを連射する。
しかし、ことごとく、かわされる。
攻防は9回に及んだ。
そして、10回目、戦況に変化が生じた。
次の矢をセットしようとした要一の手が宙をさまよう。支給された10本の矢を使い切ってしまったのだ。
――でも、これだけ射れば、1本くらいは。
将の方へと目を向けた。
彼は健在だった。それどころか、10射目の矢を右手でキャッチしていたのだ。
――なんて奴だ!
急に怖くなってしまった。圧倒的優位に立っているはずなのに、ギリギリまで追いつめられた感じがした。
次の瞬間だった。何かが空気を切り裂いて迫ってくるような音が聞こえた。体に何かが当たったような衝撃があり、尻餅をついてしまう。
――何が起きたんだ?
立ち上がり辺りを見回そうとした。
景色は変わらない。だが、首に違和感があった。何だろうと、手で触れてみる。
すると、前と後ろから、何かが生えているではないか。
――何だ、これ?
思ったのとほぼ同時に、要一の体は後方へと倒れた。
そして、もう2度と動かなかった。
§
茂みの中で、少年が立ち上がった。傍らでは金属製の強大なハサミのような物に木の枝が挟まれている。
将が、わなにかかった振りをしていたとは。また、将が野球部の中里大作(男子13番)をスピードでも、コントロールでも上回る肩を持っていようとは。そして、自分が手で投げられた矢に首を貫かれて死ぬことになろうとも、要一は想像だにしていなかっただろう。
少年は、要一の死体のある方向に冷たい視線を向けた後で、何事もなかったように歩き出した。
<1人退場:残り36人>