BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
36 「仮面の襲撃者」
D8エリア、山中。小山田寛子(女子3番)たちは細い山道を進んでいた。
隣接するエリアには忍者博物館や城跡など様々な建物がある。そこには誰かが隠れている可能性が高いだろう。脱出するために仲間を集めたい彼女たちだったが、反面、『プログラム』に乗った人や錯乱した人がいる可能性もある。そのため、足を踏み入れることをためらっていた。
特に、小野田麻由(女子3番)の死を知って以降は、慎重にならざるを得なかった。
「どこかに、思い切って入ってみる?」
しばらくは口数も少なく落ち込んでいた3人だが、ようやく話し合う余裕も生まれていた。
「でも、ちょっと、危ないかもしれないし。信用できる人と、ちょうど、道で出会えたりするといいのに」
安東初江(女子1番)の返答に首をひねる寛子。確かに、そのシチュエーションは非常に都合がいいが、そう簡単に起こるとは思えなかった。
思い切って建物に入るにしても、すでに誰か殺してしまっている人が休息をとっているのに出くわしたりしたら最悪だ。
――かといって、このままだと、誰にも会えないかも知れない。
「そういえば、教室で待ち合わせ場所をみんなも話し合っていたわよね。何か覚えてない? どの人たちが、どこに集まるとか」
少し考えてから、加藤妙子(女子5番)が答えた。
「みんな筆談していたか、誰とも話していないかの、どちらかだった気がするよ」
記憶をたどってみるが同じ結論だった。実際は寛子が信用できると考えている、高川裕雄(男子10番)たちが忍者博物館に、皆田恭一(男子19番)たちが城跡に、それぞれ集結しているのだが、残念ながら知る由もなかった。
「ところで、誰なら信用できると思う」
浮かんだ疑問をそのまま口に出す。自分は裕雄たちや恭一たちを信用できると考えているが、2人はどう思っているのだろうか。出会ってしまってから、対応を話し合うのでは遅い。信用できる人の姿が遠くに見えたら、見失わないように追いかけなくてはならい。信用できない人なら、戦闘になることも警戒する必要がある。
いざという時に、3人の意思がバラバラでは話になれない。
「大体、寛子と同じかな」
「私は寛子の言った野村君たち、高川君たち、皆田君たちの他には、龍野さん、中山さん、函館さん、山北さんあたりも信用できると思うわ」
龍野奈歩(女子11番)=クリケット部、中山幸恵(女子13番)=テニス部、函館もみじ(女子16番)=馬術部、山北加奈(女子20番)=水球部と運動部に所属する女子4人の名前があがった。
確かに、彼女たちなら信用できそうだ。1学期委員長の奈歩をはじめ、クラスを先頭に立って引っ張ってくれる4人だ。今も、一緒に行動している可能性もある。
「他にも、小川君と東野さんも、絶対に大丈夫だと思うわ」
続いて、クラス公認カップルだ。この2人も、殺しあうはずがないように思える。
「でも、恋人同士って、相手を生き残らせるために、全員を殺して自殺ってパターンもあり得ないかな。こんなこと、言ったらいけないと思うけど」
妙子が悲しそうに言った。もし、自分に彼氏がいて、支給武器が強力なものだったら、どういう行動にでるだろうか。その人のことを愛していて、どうしても生き残って欲しいと思ったなら『プログラム』に乗ることもあり得るのだろうか。
寛子は初江の支給武器であるSPAS12――今は腕の中にあるそれを見下ろす。ショットガンであるSPAS12を扱うには、衝撃に耐えられる筋力が必要だろうということで、3人の中では1番運動神経のいい寛子の装備品となっていた。
この輝きが誘惑となることもあるのだろうか。
わからない。
ただ、1つだけわかったことがあった。
「話し合うのもいいけど、これじゃあ、必要以上に誰かを疑ってしまいそうね」
話し合うだけ無駄ということだ。
どうしようかと思案していると、
「誰かな?」
双眼鏡で、辺りの様子をうかがっていた妙子が人影を見つけたようだ。
「代わって」
双眼鏡を覗き込み、状況を確認する。
すると、予想外の光景が広がっていた。塩見一中ジャージを着たその少女は、オペラ座の怪人の舞台で使われるような仮面をつけていたのだ。背格好から、長身の津久井藍(女子12番)や筋肉質の桃井なな(女子19番)などでないことは分かったが、個人の特定にはいたらない。
双眼鏡から目を外す。
もう、肉眼で見える距離まで近づいて来ていたからだ。
「誰?」
呼びかける。
少女の口が動いた。
――4、5、6人目。
声は聞こえなかったが、そう動いた気がした。
さらに、肩から背負っている四角い箱を持ち上げる。
「こっち!」
叫ぶと同時に、2人の手を引く。
『パパパパパ……』
ギリギリだったが、なんとか、木の陰に飛び込むことが出来た。
――距離を保たないと。
射撃が止まったのを見計らい、仮面少女の方へと向けてショットガンの引き金を引く。思った以上の衝撃に声を上げそうになる。
――何なのよ、もう。
寛子が引き金を引いた時には、仮面少女は素早く木の陰へと隠れてしまっていたのだ。
「大丈夫」
「うん」
衝撃を受けた寛子を気遣いつつ、今度は初江が撃った。戦いたくはなかったが、こうなったからには仕方ない。
「妙子は?」
弾を込めながら尋ねる。
「何とか、大丈夫かな」
見ると、左腕が朱に染まっているではないか。
「早く、手当てしないと」
私物のバックから、タオルを取り出すと傷の周りに巻く。
「ありがとう」
しかし、これ以上はここではどうしようもなさそうだ。どこかで薬箱を拝借して消毒したいところだが、そういうわけにもいかない。
仮面少女は、簡単に引いてくれるとは思えない。口の動きから読み取った言葉『4、5、6人目』が正しいとすれば、今までに退場した6人中3人を殺害しているのだ。
「代わって」
SPAS12と入れ換えに初江に渡したCZ100、13発の銃弾をすべて撃ってしまったようだ。
木の陰から顔を出し、撃った。
すぐに身を隠す。
『パパパパパ……』
銃弾が木を叩く。音が止むと同時に撃ち返す。だが、その間に木1本分、距離を詰められてしまった。
――どうしたらいいの。
唇を噛む。
戦いの中、敵の仮面の下の素顔をうかがい知ることはできなかった。
<残り36人>