BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

37 「やるべきこと」

 忍者博物館に入ってから、半日近くが経とうとしていた。高川裕雄(男子10番)は仮眠をとらせてもらっていた。
『パパパパパ……』
「なんだ!」
 銃声によって叩き起こされる。
「直正、孔明」
 行動を共にしている千野直正(男子11番)と久慈孔明(男子7番)に声をかける。
「近いみたいだな」
「あぁ、本当にすぐ側だぜ」
 意外にも冷静な2人――らしいと言えば、らしいのだが。
「どうしようか?」
「そうだな、2人はどうしたい?」
 孔明はギンバー1911を指に引っ掛けてクルクル回しながら言った。
「助けないわけには、いかないだろう。もし、殺る気になっていない奴らが襲われているのだとしたら」
 棒手裏剣をいじっていた手を止める直正。
「俺も、同じだよ。もし、そうだとしたら放っておけないよ」
 裕雄も続いた。
「なるほど、やっぱり俺ら3人は息が合っているみたいだな。俺も同じ考えだ。ただ、俺はお前らほど優しくないからな。殺る気になっている奴で、中里のように武器を奪うのが不可能だったら、そいつを倒してしまうべきだと思っている。新しい犠牲者を出さないためにな。それでもいいか」
「同感だ。孔明がそこまで覚悟しているなら、つき合わないわけにはいかないだろう」
 直正は右手を突き出し、親指を立てる。
 3人は互いの顔を見ながら、うなずき合うと行動を開始した。
「これは直正が持っておけ」
 孔明が中里大作(男子13番)の支給武器だった拳銃――ニューナンブM60を投げ渡す。
「わかった」
 それぞれの荷物を持つと、建物の外へと向けて歩き出す。
「ちょっと、待ってよ」
 裕雄が何かに気づいたようだ。
「直正、あれは持っていかなくていいの?」
 部屋のすみに置いてある直正の支給武器――といっても、武器ではないのだけれど――の防弾盾を指差す。
「あぁ、それか。山の中を移動すると、草なんかに引っかかって音が出てしまうし、第一にそんなデカくて、重い物、持ち歩くには向かないから、置いて行くことにする」
 裕雄にとっては中里大作の放った銃弾を受け止めてくれた命の恩人だけに、手放したくない気持ちがあったのだろう。
 だが、直正の言葉に納得したようで、2人の後に続いて歩き始めた。

 博物館の外に出ると、右手には城跡、左手には上り斜面、そして、目の前には下り斜面が見えた。
 銃声は3方のうち前方から断続的に続いている。音の種類は3つ、どうやら銃撃戦のようだ。
「2人以上のチームの方は殺る気でない可能性が高いな。殺る気ならチームなんて組む必要ないからな」
「あぁ、残り2人になるまではチームを組もうっていう思考でない限りはな」
 孔明が皮肉たっぷりに言った。
「行ってみよう。行かないことには、何も分からないよ」
 裕雄の言葉に2人がうなずき、直正を先頭に斜面を下りはじめる。
 斜面には何本かの木が生えており、中には人が何人か隠れられそうな大木もあった。
 また、下草が刈られていたり、枝打ちがされていることなどが、この木々を育んだ人々の存在を示していた。
 彼らが、『プログラム』のために島を追われたのだと思うと、ここで戦っていること自体が申し訳なく感じられた――もっとも、それが戦いをやめる理由にはならないのだが。
 1、2分下ったところで、戦っているクラスメイトの姿が目に入ってきた。片やマシンガンを連射する仮面の少女、もう片方はショットガンと拳銃で必死に応戦しているようだが押され気味に見える。
 どちらが殺る気かは明らかだ。殺る気でないのなら、仮面で顔を隠す必要などないのだから。
 直正が手で合図を送る。孔明には『回り込め』、裕雄には『ついて来い』だ。合図を2人が瞬時に理解するあたりは、さすがのコンビネーションだ。
 直正と裕雄は防戦一方となっている3人組の近くまでやってきた。そこまで来てはじめて、その3人が小山田寛子(女子4番)、安藤初枝(女子1番)、加藤妙子(女子5番)だと分かった。
「裕雄、無理に前に出るなよ」
 当人以外には聞こえないように小さな声で言うと、仮面少女を狙ってニューンナンブM60を撃つ。
 予期せぬ方向からの銃撃に少女がひるむ。
 音に気づいて、こちらへと振り向く寛子たち。口元に指を立てて静かにしろと伝えると、手招きをする。
 彼女たちがうなずき、こちらへと向かってくる。
 1発、2発と援護射撃して、移動を助ける。
「ありがとう、助かったわ」
「別にいいさ。それより、ちょっと、貸してくれないか」
 初江からCZ100を受け取ると、裕雄にニューナンブM60を渡す。弾切れだと理解した裕雄は、直正のディパックから予備弾を取り出す。
「ケガはないか」
 撃ちながら、直正がたずねる。
「妙子が、撃たれたの」
 振り向きざまに、傷の様子を確認する。
「大きな傷ではないようだけど、ちゃんと、手当てした方がいい。H9エリアに診療所があるから行ってみろ。先客がいて危なそうだったら、I3に薬局もある。さすがに両方が、殺る気の奴で定員オーバーってことはないだろう。アイツは、俺たちで何とかする。早く、行け」
「でも、いいの?」
『パパパパパ……』
 久しぶりに聞こえる連射音。
 CZ100を返すと、寛子のSPAS12を受け取る。
「いいとか悪いとかの問題じゃない。護りながら戦う余裕はなさそうなんだ」
 2発続けて撃つとSPAS12を返し、裕雄が弾をこめたニューナンブM60を受け取り、1つ前の木へと進んでいく。
「そういうことだから、早く行って」
 直正の代わりに、裕雄が言った。
「ホントにいいの?」
「大丈夫、直正は負けないよ。それに、早く手当てしないと取り返しがつかないかもしれないし、急いで」
 そこまで言われては仕方ないといった感じで、うなずく寛子。
「わかったわ。でも、絶対に死なないでね」
 裕雄はうなずくと、直正の後を追って行く。

 H9エリアへと向かう寛子たちの姿を見た直正は、安心したように顔の筋肉を緩めた。
 しかし、次の瞬間には再び緊張させ、敵へと向かって行った。 

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