BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

40 「諸刃の心(前)」

「見損なったわ!!」
 鎖鎌を片手に桃井なな(女子19番)が迫る。
(しまった、面倒なのと会っちまったな)
「裕雄、持っとけ。護身用だ」
 千野直正(男子11番)はニューナンブM60を高川裕雄(男子10番)に投げ渡す。
「えっ、でも」
 驚いた裕雄は飛んできた拳銃を取り損ねそうになるが、危うく手に収めた。
「しっかりしろ、野球部だろ」
 裕雄をリラックスさせようと、おどけた調子で話しかける。
「でっ、でも、これから戦わなきゃいけないかもしれないのに」
 どうして拳銃を手放すの――と視線で問いかけられた。とても不安そうだ。
「そう言うな、向こうは鎖鎌なんだ。俺が銃なんて持って行ったら意味ないだろう」
 裕雄には悪いが心が高揚していた。それはそうだ、諦めかけていた決着を付ける機会が巡ってきたのだ。これに乗らない方がおかしい。
「大丈夫、約束を果たすだけだ」
 心がけて笑顔で伝えたが、裕雄は依然として硬い表情だ。
「でも、もしものことがあったら」
「だから、心配ない。桃井さんは卑怯なことはしない。絶対、命の取り合いにはならない。それより、『プログラム』に巻き込まれていた時点で諦めていた決着が付けられるんだ。孔明と2人で邪魔が入らないように、ちゃんと見といてくれよ」
 返事を待たずに走り出す。危うくお蔵入りになるところだった、決闘シーンの主演を演じるために。

   §

 それは塩見一中に入学したばかりの頃のことだった。
 直正は武術以外のもう1つの趣味に没頭していた。それは読書、というわけで直正は図書室にいた。
 居残りで勉強をしている生徒たちの中に混じって、流行の長編小説「灼眼のフルメタルは笑わない」の2巻「キノの使い魔」を読みふける。1冊500円程度とはいえ、シリーズ物となれば、中学生の小遣いで全巻揃えるのは難しい。誰がリクエストしてくれたのか、はたまた飽きた誰かが寄付してくれたのか、「灼眼のフルメタルは笑わない」シリーズが全巻揃っていたのは幸運だった。
 そして、このシリーズを読み終わる頃には自らリクエストした小説が入荷するだろう。正に理想的な展開だ。
 夕日を浴びつつ、ストーリーに浸っていた時だった。場違いな声が静寂を破る。
「直正いる!?」
 図書館に残っていた生徒が一斉に顔を上げた。少年はドアを開けると駆け寄ってきた。
「直正、あの……あの、あのさ!」
 よほど、慌てているのか、しどろもどろだ。何があったのだろう? しかし、それを聞く前にやらなければならないことがあった。
「わかったから、図書館の中で騒ぐな」
 誰かが怒り出す前に彼――裕雄を外へと連れ出す。
 冷たい視線に見送られ、廊下へと出る。裕雄は廊下の壁にすがり、胸に手を当てながら荒い息を整えようとしていた。
「まったく、図書館で大声はないだろう」
 諭すように話しかけた。と言っても、裕雄があれだけ慌てていたということはただ事でないのも確かだ。小学校入学以来の付き合いである、それくらいのことは分かる。
「それで、どうしたんだ?」
 その言葉を聞いた裕雄は思い出したように大声を上げた。
「あっ、直正。大変なんだ。こっちに来て」
 裕雄が走り出す。
「ちょっとくらい説明してくれても」
「そんな暇ないんだ。いいから早く!」
 それから向かった先で待っていたのは2人の人物との出会いだった。

   §
 
「まさか、あなたが『プログラム』に乗るなんて思わなかったわ」
 数メートルの間隔を取って向き合う。この距離が2人にとってギリギリの間合いだった――ななの鎖鎌がギリギリ届かない、あるいは直正の投げる棒手裏剣をなながギリギリかわすことができる距離だ。
「威嚇だよ。当てるつもりなんてなかった」
 納得してもらって仕切りなおしたあとで、約束を果たす。直正はそう考えていた。
「本当? じゃあ、あの後ろ姿は誰?」
 見られていた? 痛いところを突かれた。答えようがない。仮面の話をしたところで実際に見ていないななが信用してくれるとも思えない。
「この棒手裏剣だって、本当は狙っていたんじゃないの? 私だったから薙ぎ払えたけど」
 どうしたものか? 感情的になっているなな、話は通じそうもない。
「どうなのよ! 答えてみせなさいよ!」
 棒手裏剣が風を切りながら迫る。
「話は通じないか。なら、仕方ない」
 それをかわすと、直正も棒手裏剣を投げつける。
 ななの鎖鎌がそれを叩き落とす。

 間合いを計りながら走り出す2人。
 この2人が遭遇し戦ったことは偶然だったのか、必然だったのか。
 永遠に動きを止めるかに見えた歯車が動き始めた。

                         <残り36人>


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