BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

41 「亡国の城主」

 E7エリアの城跡、城壁の隙間から皆田恭一(男子19番)は城下を見下ろしていた。
(はぁ〜、誰だか知らないけど、やっちまってるな)
 D8、D9エリア付近から連続して聞こえた銃声、激しい戦闘が繰り広げられたに違いない。午前6時の放送までに死亡したのは4人、次の放送では何人の名が呼ばれてしまうのだろう。
 小村典佳(女子6番)の支給武器を指し示す暗号を解き明かし、この城へとやってきた。幸いにも先客はおらず、守りを固めて立てこもることが出来た。恭一の9mm拳銃、前田利次(男子18番)のセトメLC――アサルトライフルだ、井上あんり(女子2番)のベレッタ タクティカル エリート、湯浅波江(女子21番)のマテバM2007、と支給武器も当たり揃いだ。しかも、これに典佳への支給武器が加わった。
 恭一は城下から、それへと視線を移す。黒光りするボディー、固定された銃座の前方には盾が装着されており、銃座自体が360度回転する。艦艇にも装備されている銃器、その名を20mm機関砲という。唯一の欠点として移動が不可能であることが上げられるが、今回の『プログラム』でこれに勝る支給武器は存在しいだろう。
 話し合いの結果、これは利次が担当することになった。典佳が自分には荷が重いと主張したからだ。そんなわけで、現在は典佳が恭一の支給武器である9mm拳銃を、恭一が利次の支給武器であるセトメLCを装備している。
 この城の防御は完璧だ、誰が攻めてきても守り通せる。それは自身を持って言える。
 ただ、それにどれだけの意味があるのだろうか。
 確かに、殺る気になった生徒が攻めてきても防ぐことができる。けれど、ここが禁止エリアに指定されたらどうだろう。当然、時間までに脱出するしかない。最後まで禁止エリアにならずに守り通せたとしたらどうだろう。自分たちだけが生き残れたとしても、時間切れで全員死ぬのを待つことしかできない。あるいは、誰かが錯乱して同士討ちがはじまるか。
(って、なに考えているんだ、オレ)
 仲間を信じる、それさえ出来なくなってしまっては政府の思うツボだと言うのに。
(クソッ、オレがもっと早く気づいていればな)
 どうしてこれまで、この『プログラム』に巻き込まれる直前まで気づかなかったのだろうか。意図的なクラス分けであることは明らかなのに。担任が湊だから、副担任が坂持だから、優秀な生徒が集められたのだと思った? 半田彰(男子15番)や下田要一(男子8番)、吉岡治(男子20番)など、問題のある生徒が集められた分、優等生を入れてバランスを取ったと思った? いや、そもそも『プログラム』になど選ばれないと高を括っていた?
 そんなことはどうでもいい、もっと早く気づいていれば。いや、仮に気づいていたとして、自分に何ができただろう。マスコミに公表する、この国の圧制の中で政府を糾弾するマスコミなど皆無だ。それどころか、そのまま警察に突き出されるのが落ちだろう。みんな揃って転校する? いや、「このクラスは『プログラム』に選ばれています」なんて一介の中学生が言ったところで誰が信じる。嘘つき呼ばわりされた挙句、真実だと気づいてもらえるのは優勝者以外のクラスメイトの死が確定する時だ。反政府組織に密告する、いやこれこそ無謀だ、慎重に慎重を期さなければならない反政府活動において中学生ごときの意見を容れることはないだろう。
 結局、自分にはどうしようもなかったということなのか。
 「恭一に付いて行けば、脱出できるかもしれない」、利次たちはそう信じて頑張ってくれている。けれど、恭一が出来たことと言えば、堅固な要塞を築いたことだけだ。これ以降の計画は、脱出するための算段はまったく立っていない。
 今、城下に広がっているのは42人の中学生にとっての戦場である。
 けれど、恭一には違う様子にも見えた。数多くの旗印が城下に立ち並ぶ様を天下一の名城と呼ばれた城の天守閣から見下ろしている。豊臣秀吉の大軍に囲まれた小田原城の北条氏直、あるいは徳川家康の大軍に囲まれた大坂城の豊臣秀頼か。いつか兵糧が尽きると、敗れると分かっていても立て篭もるしかない、自分はそんな亡国の城主なのではないか。そんな錯覚に陥る。
 いっそのこと、真田幸村のように打って出て戦場に殉じた方が、森嶋に一泡吹かせてやった方が潔いのではないか。
(いや、落ち着け)
 そんな自分に言い聞かせる。チャンスを待つんだ、そんなことをしても何も出来ないうちに首輪を爆破させられるだけではないか。
「とにかく今は、時が満ちるのを待つんだ」
 自らに言い聞かせるように呟いた。

 彼はこのまま”亡国の城主”となるのか、それとも、起死回生の勝利を得て”英雄”と呼ばれるのか。
 今はまだ分からない。確かなことは、彼がまだ諦めていないということだけだった。

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