BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
46 「感謝」
「お前ら、日も暮れてきたが、夜間戦闘の準備は出来ているかぁ!? 有力者同士の戦闘が続いて負傷者も出ている、体力に自信のない奴も隙を突くチャンスは十分だぞ。それじゃあ、死亡者だが、今回は男子6番下田要一、1人だけだ。お前ら、気合が足らんぞ。寝込みを襲う、闇に乗じての夜襲、夜間の攻撃手段はいくらでもある、ペースアップを期待しているぞ。次に禁止エリアだ、1度きりだから、よく聞け。午後7時にG6、午後9時にB3、午後11時にC6、以上だ。それじゃぁ、頑張れよ!」
疲れを知らない森嶋――放送と放送の間に、昼寝をしていた可能性もあるが――の声が響く。
野中遥(女子15番)は切り株に腰を掛けていた。回りには白井由(女子7番)、瀬川絵里香(女子9番)、千田蘭(女子10番)、根岸美里(女子14番)といういつものメンバーの姿があった。
しかし、安藤初江(女子1番)、小山田寛子(女子4番)、加藤妙子(女子5番)の姿はない。絵里香と寛子が合わないことは分かっていた。それでも、普段なら寛子が身を引いて丸く収まっていた。だが、今回はそうはいかなかった。この場面では、命のかかったこの場面では、絵里香にしても寛子にしても「妥協して行動した結果としての死」を受け入れられないのは当然だ。結果として、遥たちのクラス女子最大派閥の9人は、2グループに別れることと相成った。それから、およそ半日、野村将(男子14番)からの襲撃を受けた遥たちは、何とか逃げ延びて、ここにいる。
だが、そんな遥たちの中に、彼女の姿はなかった。クラスの女子の中でもかなり小柄な方で、大人しくて控えめな、話すことが苦手で、いつも絵里香や寛子たちの話をニッコリ笑いながら聞いていた彼女の姿はなかった。
――小野田麻由(女子3番)がいない。
それは大きな消失感となって遥たちの心を覆っていた。自信なさ気に俯いている絵里香という、卒業するまで見ることもないと思っていた姿が目の前に晒されている。その向こう側では、蘭や美里も口少なに体を休めている。
そんな中で由だけが、気を抜かずに銃の手入れや禁止エリアのチェックなどを黙々とこなしていた。それが由なりの気の紛らわし方なのだろう。
遥も同様に、麻由の死を伝えた正午の放送以降の時間を放心状態で過ごしていた。どうしてこんなことになったのかと考えているうちに、時間だけが過ぎていた。もしかしたら、自覚がないだけで途中で眠ってしまっていた時間があったのかもしれない。
――あと、6時間……。
手の中にある黒い直方体へと視線を落とす。その小さな箱こそが、遥たちの命を救ったものだ。その正体は「禁止エリア無効権」、名の通り、指定した生徒の1番近い禁止エリアへの進入を可能にする装置だ。この装置の対象となった生徒は、1番近い禁止エリアへと進入しても首輪が爆発しなくなる。制限時間は「スイッチを入れてから3回目の放送まで」、つまり、1日目の午前中にスイッチを入れた遥たちにとっては、2日目の午前0時の放送までということになる。
正直、説明書を読んだだけでは信じられなかった。政府の罠かもしれない、それこそ、犠牲者を出すために、わざと用意された支給品かもしれない。これを手にした生徒のほとんどは、そう疑うだろう。野村将の襲撃という切羽詰った状況で、ワラにもすがる思いで説明書を開いた、遥ですら疑ったのだから間違いない。図書館の中で用途に気づいていたなら、使う気にはならなかっただろう。
しかも、将を前にして、説明する暇もなかった。「いい隠れ場所があるんだけど、私に付いて来てくれないかな」、こんな言葉で精一杯だった。はっきり言って確証がなさ過ぎる、根拠すら怪しい説明だ。
それでも、絵里香たちは付いてきてくれた。もちろん、他に方法がなかったということもあるだろう。それでも、うれしかった。信じて付いてきてくれたことが。
自分たちは今ここにいる、本来ならば禁止エリアであるはずのH4エリアで生きている。その事実が、ただ、うれしかった。麻由を失って、折れそうになった心を支えてくれている。
だから、
「みんな、そろそろ、ご飯にしましょう。それから、ここには私たち以外は入れないんだから、今のうちに眠っておきましょう」
絵里香の声に大きく頷いた。
――自分を信じてくれた、みんなと一緒に頑張ろう。麻由のところに行く、その時まで。
少女は胸の中で誓った。それは、優勝を狙うでもなければ、奪取を願うわけでもない。ただ、終わりが来る時まで、精一杯生きたいという想いだった。
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