BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
53 「種明かし」
辺りに夜のとばりが落ちたのも昔に思える、今日という日の終わりも近い。今までは何気なく過ぎていた、だが、今、この場ではすごせたことが奇跡のようにも思える1日という時間。
前田利次(男子18番)は20mm機関砲の固定銃座に腰を下ろし、夜空を見上げていた。月に1度の新月の夜、姿を隠す街明かりも存在しない中で、星たちの瞬きが見える。
死んだ生き物は星になる、よく言われる話だが、命の危険に晒された中で見上げる星は、いつも以上に胸を締め付けてくれる。
こんな時でも、恭一たちと共にあれることは嬉しいことだが、この急場を乗り切ることが出来るのだろうか、不安が募る。
それは少し前のことだ。
「なぁ、恭一。今夜はこのままとして、これから、どうするの? さすがに、ずっと、このままってわけにはいかないよね」
思い切って尋ねた。合流して、この城跡へとたどり着いてからこっち、同じ場所に留まっているばかりという現状、「このままでは、いずれ、手詰まりになる」、それくらいのことは利次にも分かっていた。
「そうだな。その前に、どうだ、暗号の解答が気にならないか?」
気にならないはずがなかった。今思えば、恭一は答えをはぐらかせたのだろうけれど、その時には思いもしなかった。
「おっ、やっと、教えてくれるの!」
多分、可笑しいくらいに目を輝かせて答えていたに違いない。
『2389205 → 13138914572114』
自分には、まったく手の出なかった暗号を僅かな時間で解いてしまった恭一。その頭脳があれば、『プログラム』を乗り越えることも出来る。その時には不安の欠片も感じていなかった。
「で、どうなの、早く!」
「まぁ、落ち着けって。とりあえず、スペシャルヒントを出すから、自分でやってみろ」
恭一はニヤッと笑うと、言葉通りにヒントをくれた。
「数字を英語にしてみな」
――数字を英語!?
英語にするということは、数字がアルファベットの順番に当てはめるということだろうか? なら、『1』は『A』、『2』は『B』……となるから、『2389205』は『BCHIB』、
――あれ、でも、『0』は何になるんだ!? まぁ、いいや、後回しにするか。
というわけで『0』を飛ばして、数字をアルファベットに直した結果は次のようになった。
『BCHIB?E → ACACHIADEGBAAD』
まったくもって意味が分からない、全体が単語になっていないのはもちろん、単語が含まれているようにも見えない。
「それで恭一、これに何の意味があるんだよ。単語でも、なんでもないじゃないか」
抗議の声を上げるが、恭一はここまでを織り込んでいたようだった。
「なぁ、利次、アルファベットは何文字ある?」
「何文字って、そりゃぁ、26文字だろう」
当たり前の話だった。だから、『1』が『A』で、『2』が『B』で、『26』が『Z』なのだ。
「じゃぁ、『23』は何だ?」
「えっ、23!? あっ、そうか!」
左側の『2』と『3』は『23』なんだ。だとすれば、『2』と『0』は『20』だから、
「そうか、左側は『WHITE』なんだ!」
「そう、そういうことだぜ」
恭一は満足そうに頷くと、続けた。
「同様に、右側の『1313』は『13、1、3』と見る。そうやって解いていくと『WHITE → MACHINEGUN』ってなるわけさ。そして、『WHITE』は、白だから城、大したことない暗号だろう」
さすがは恭一だった。簡単に言っているが、『1313』のところでだけでも、『MM』、『MAC』、『ACM』、『ACAC』の4パターンがあるのだ。そのパターンの中で単語として成立するものを見つけ出していく作業を、あの短時間でやってのけたのだ。
「さすが、恭一だね。ここからの生還についても、この調子で頼むよ!」
景気付けのつもりの一言だった。しかし、恭一は一瞬戸惑ったような顔をして、
「あっ、あぁ、任せろ」
そう曖昧に答えた。
いつも自信たっぷりの恭一の、いつもとは違う態度、この状況で利次が不安を感じるには、それだけで十分だった。
恐らく、さすがの恭一も『プログラム』を、政府を相手にするということで、困難に直面しているのだろう。
――けど、それでも、恭一なら大丈夫だよね!
明日になれば、いつものように自信たっぷりに、ニヤッと笑いながら、妙案を披露してくれるに違いない。
――そのために、俺は俺の役目を果たすよ。
恭一との交代時間まで、残り1時間半、利次は見張りという自らの役割に集中するよう、自分に言い聞かせた。
仲間たちから運命を託された少年は、暗号の解読同様に『プログラム』から逃れる術を見つけ出すことが出来るのか。
それは分からないけれど、1日を無事に過ごすことが出来たのは少年の頭脳に寄るところが大きいことは、紛れもない事実だった。
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