BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜


 

55 「星空の下で」

「綺麗だね」
 東野みなみ(女子17番)が空を見上げて、目を輝かせている。
「そうだね」
 そう答えるが、小川正登(男子3番)が見ていたのは、星空ではなく彼女の横顔だった。こちらの方こそ、とても綺麗だった。星空なんて霞んでしまうくらいに。
 F7エリアの天体望遠鏡、午後6時の放送の直後に麓の方から銃声と爆発音が聞こえてきた以外は、来訪者もなく平穏を保っていた。
 そんな中で、正登とみなみは『プログラム』の最中であることが嘘のように穏やかな時間を過ごしていた。一度は心中を決意していた2人にとって、今の時間はお釣りみたいなものであるということも影響しているかもしれないが、それにしても、状況を逸脱している――と思う。
 けれど、そんなことはどうでもよくもあった。戦闘に巻き込まれないなら、巻き込まれないに越したことはないし、『プログラム』の最中であったとしても、2人で楽しい時間を共有してはいけないということはない。むしろ、教師たちやクラスメイトの視線がある時以上に充実した時間を送ってしまっている気すらしてきてしまう――まったく、不謹慎な話だ。
「ねぇ、秋の四角形って、どれかな?」
「秋の四角形は、ぺガスス座のα星マルカブ、β星シェアト、γ星アルゲニブと、アンドロメダ座のα星アルフェラッツだから、えっと、あれがマルカブかな」
 カウンターに置きっぱなしになっていた星座板を片手に星空を探す。
「えっ、どれ? 分からないよ」
「ほら、あれだよ」
 星空を指差して一生懸命に説明するが、中々、伝わらない。
「もう、もう少し、分かりやすく言ってよ」
「えっと、そう言われも……」
 こんなことをやっていてもいいのかと言われれば、反論の余地はない。
 けれど、いつまで生きていられるのか分からないからこそ、明日があるかどうかも分からないからこそ、その一瞬一瞬を楽しむべきなんじゃないかと思う。
 それが、大好きな人と一緒だというのなら尚更だ――これって、それでも、おかしいことなのかな? 少なくとも、俺は可笑しくないと思う。
 だから、できる限り、こうしているつもりだ。『プログラム』の中とか、『修学旅行』とか関係無しに、楽しめる時に楽しむ、それだけだ。

 2人の天体観測は、夜が更けるまで続いた。

   §

「防衛システムの破壊は、依然、厳しいとのことです」
 大東亜共和国内、某所。冷却ファンの音が響く部屋の中、深夜になっても作業は続けられていた。
「そうだろう。やはり、深夜になったからといって、警戒が疎かになるような相手ではないな」
 三村は現実を極めて冷静に受け止めていた。その程度の相手であるならば、とうの昔に革命が成就し、大東亜共和国の元首は総統ではなくなっているに違いない。
「潜水艦の方は、どうなんだ?」
 反対に、一番奥の席の男が少しイライラした口調で言った。
「順調に航行を続けており、目標ポイントには予定通りに到着できそうです」
「そうか」
 三村が頷く。
「はい。ですが、目標ポイントには到着できても、防衛システムが生きている限り、それ以上の手出しは不可能です」
「そんなことは分かっている。どうせ、口を開くなら、もっとマシなことを言え!」
 通信士の指摘に対して、一番奥の席の男が怒鳴り声を上げた。
「落ち着け、冷静(クール)にだ。君が怒鳴ったところで、防衛システムが破壊できるわけではない。ここで仲間割れして、何になると言うんだね」
「すみません」
 たしなめられて、男が頭を下げる。
――この作戦の成否は、君がシステムを破壊できるかにかかっている。頼むぞ、田中君。
 三村は握る拳に力を込めた。

   §

「さて、朝ごはんにするかい? でも、まだ少し早いかな」
 時計に目をやりながら医師が苦笑した。
 こんな話を片や語り、片や聞いているのだ。お互いに気持ちが昂ぶってしまうのも無理はなく、早々に目が覚めてしまったのだ。お蔭で、窓の外にはぼんやりと星空が残っている。
「そうですね。まだ、早いですかね」
 少女が笑顔で答える。出会ってから1日が経ち、2人の間はかなり打ち解けてきていた。
「じゃあ、眠気覚ましにコーヒーでも入れてくるよ」
 医師が部屋を出て行く。
 1人残された少女は、窓の外を見つめながら、1つ深呼吸した。

                         <残り35人>


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