BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第2部
〜 真実の神戸 〜
9 「『運命の時』を前に」
『パラッ、パラララララ……』
突然の銃声に真中真美子(女子18番)は仰天した。
――誰かが『プログラム』に乗った!?
支給武器のデトニクス(装弾数6発、45ACP弾仕様)を握りしめる。
自分たち3人――通称陸上部トリオの待ち合わせ場所である『E3』とは反対方向からの銃声だったので大丈夫だろう。
けれども、安達隆一(男子1番)と香川圭(男子4番)の身が案じられた。何かの事情があって『E3』に向かえなかった可能性もある。
今の銃声は、誰かの命を奪ったものかもしれないのだ。
背筋が寒くなる。次にその銃口に狙われるのは自分かもしれないのだ。
出発してからは建物の陰に隠れたりしながら、慎重に進んできた。
しかし、銃声を聞いてしまった今、隆一や圭と早く合流したい気持ちにかられていた。
3人が出会ったのは入学直後だった。
陸上部の体験入部会場。
列の中に数時間前に自己紹介を終えたばかりのクラスメイトの姿を見つけた。
「同じクラス、だよね」
思い切って声をかけた。
「え〜と、誰だっけ。自己紹介だけじゃ、覚えられないや」
少々、イヤミっぽい話し方であったが、正直に覚えていないと認めた姿勢には好感が持てた。
「安達君、そういう言い方は失礼だよ」
「じゃあ、香川は覚えてるのか」
「いや、それは……」
「おい、お前の方がよっぽど意味失礼じゃないか」
ストレートな物言いの隆一。
生真面目だけど、どこか抜けている圭。
短距離、投擲、高跳びと種目が違っていたことも良かったのか、すぐに意気投合した。
それから3年間友情を育んできた。
よく男女の友情は難しいと言われるが、自分たちはそんな格言に縛られることはないと自負している。
――私たちは『プログラム』の中でも変わらない。
そう信じていた。
――とにかく急がないと。
すでに、集合場所であるE3の湖の隣、E4エリアのスポーツ公園まで来ていた。
事務所の陰から顔を出す。
辺りに誰もいないことを確認すると、少し急ぎ足で進む。
公園横のスロープを下って行くと、水の流れる音が聴こえてきた。
――もうすぐ会える。
水音に勇気づけられるように、更にペースを上げると、間もなく湖畔へと出た。
水際の砂地に足を踏み入れる。
星の光を反射した青黒い湖面が揺れる。
水分を含んだ重たい空気に包まれた。
『プログラム』の最中であることを忘れてしまいそうなほど幻想的な光景。
『パラララララ……』
それを銃声が切り裂く。
――また、一体誰が。
何が起こっているのか気になったが、確かめに行く気にはなれない。
ただ、『プログラム』は始まっているという実感が胸を締めつけた。
心を和らげてくれるのは、信頼できる仲間だけなのかもしれない。
――1周すれば会えるよね。
湖畔沿いに歩く。
歩きながら考えた。
――『プログラム』に乗ったのは誰なの?
そもそも、2回の銃声は同じ人によるものだったのだろうか。
同じ人によるものだとすれば、『プログラム』に乗った人に誰かが襲われたと考えるのが妥当だろう。
逆に2人によるものだとすれば、『プログラム』に乗った2人が別々に誰かを襲ったのか。2人による銃撃戦ということも考えられるが、それにしては広すぎた気がする。
あるいは、もっと別の可能性、例えば、森嶋たちが『プログラム』に乗った人がいるという誤解を与えるためにやったのかもしれない。
『疑心暗鬼』
『生存本能』
2つの感情は、『プログラム』の成立に不可なものだ。
わかっていても抑えきれない。
もしも、日本刀を振りかざされ、今にも斬りかかられそうなとき、自分の手の中に拳銃があったとしよう。
果たして、引き金を引かない人間はいるのだろうか――もちろん、丸腰でも相手を倒せるような武道や格闘技の猛者は別にしてだ。
はがゆいが、どうしようもない。
人間とは、いや生命体とはそういうものなのだ。
ため息が出る。
考えがたち切れたところで顔を上げた。
すると、前方に2つの人影が見えた。
――安達君と香川君!
駆け寄ろうとして、ハッとする。
――もし、2人じゃなかったら。
2つの気持ちが交錯した。
とりあえず、2人であることを確かめるまでは、違うという前提で行動するべきだろう。
だが、どうやって確かめるのか。
下手に動けば、最悪、撃たれてしまうかもしれない。
――どうしたらいいの。
銃を握る右手を汗が流れる。
「真中さん?」
その声によって緊張から解き放たれた。
間違いなく圭(男子4番)の声だ。
「香川君? 安達君も一緒なの??」
「うん、一緒だよ」
互いに歩み寄る。
と、隆一の手にも拳銃が見えた。。
「真中さんの支給武器も銃なんだ。俺のワルサーP38と合わせて2丁だな。3人で2丁っていうのは当たりの部類なのか?」
「どうかな。確かに、僕の火炎ビンを入れると3人とも当たり武器なのは確かだけど、さっきの銃声はマシンガンとか、拳銃より強力な銃器だよ。とても太刀打ち出来そうにないよ」
不安そうな圭。
「そうだな。とりあえず、どこかに隠れるのが得策みたいだ。こんなところに突っ立っていても的になるだけだ」
「そうだね」
圭も隆一に同調する。
「そうと決まれば、急ぎましょう」
隠れ場所を求めて森の方へと向かった。
そんな3人に『運命の時』は刻々と迫っていた。
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