ほーちけんだより(Miscellaneous)


11    オタク
2013-07-05 
後半生は環境放射線オタクで暮らしている。自然放射線に絞って研究してきたのだったが、原発事故以来そうも行かなくなってきた。 で、あらためて考えみた、オタクって何だろう?むろん分かるはずもないが、こういうのは正解がある問ではないので、自分なりに勝手な 解釈をししてもいいだろう。
 以前、この欄で自転車について「生活するために自転車に乗るのではなく、自転車に乗るために生きている」、と書いた。私は雨と酷暑のとき以外は毎日、散歩とラジオ体操をダラダラと続けているが、これは健康を維持するためにやってるわけではない。散歩とラジオ体 操がワリと好きだから、それを続けるために健康に気をつけているのだ。『どっちでも同じことだろ』というなかれ。目的と手段が逆なのだ。 論理的に考えてみよう。「健康を維持するためにタバコをやめる」というのはヘリクツとして論理的に成り立つが、「タバコをやめるために健 康を維持する」ではおかしな論理になる。私の場合はタバコを快適に吸うために、あるいは酒を美味く飲むために健康を維持している のだ。
 環境放射線も何かのための手段として続けているわけではなく、骨折り損のクタビレもうけでも、その研究自体を楽しんだり苦しんだり している。私には実践できそうもないが、ヤセガマンを張り通す人、無意味なことに大金を注ぐ人、多額の義援金をして、死んだ後も人 に知られなかった人、そういう人がいれば無条件に尊敬してしまう。

12    図面描き
2013-06-21 
パソコンとお絵かきソフトのおかげで図面を引くのが昔に比べてはるかにラクになっている。私は工業高校だったので高校時代から図面引きをしていた。あのころはまだ烏口ペンを使ってたのだが、仕上げ直前にインクが図面にポタリと落ちて泣きたくなったのを覚えている。大学院からは論文用の図面描き作業はロットリングを使っていた。線引きも字入れもこれでラクラクやれた。それでも夏にクーラーの無い部屋で作業をしているうちに、トレーシングペーパーに引いた線を汗だらけの手でダメにしたこともタビタビある。今のお絵かきソフト作業は昔に比べると極楽だ。曲線もエクセルが勝手にフィットしてくれる。デジタル万歳だ。
 しかしエクセルではn次式や対数、指数などの限られた関数でしかフィットできない点は不満である。昔は雲形定規というワケワカラン定規を使ってn次式と指数関数が混ざったような曲線でも引けた(主観的にフィーリングで引くのだが)。このへんはアナログの強みだ。

13    はんぱ力
2013-06-03 
何事にも中途半端で終わる人は尊敬されない。口うるさい老人は言うに及ばず、軽佻浮薄なる若者ですら「アイツははんぱ無い」などと敬意を払う。しかしそう言い切っていいのだろーか?巷ではラーメンや酒ですら「極める」という字が踊っている。ましてや芸術、学問においておや。
 しかしすべてのもの事には両面がある。あるものはpositiveだけで、また、あるものはnegativeだけ、ということはありえない。例えばいまハヤリのユルキャラなどは中途半端の好例だろう。クマモンをはじめヒコニャン等々、岐阜では引退したヤナナなどは誰がみてもハンパない中途半端さだ。私は絶妙な命名「老人力」をまねて、それを「半端力」と名付けた。
 趣味などは中途半端だからこそいろいろな趣味を楽しめるのだ。お稽古事にいちいち奥義を究めようとしてたら「遊びとは苦しきことのみ多かりき」になってしまう。半端に専門知識があるからこそセールスが生きてくる。街の誰にでも断言しながら売り込むことができるのだ。学園祭では工学部の学生が自信に満ちた態度で参観者に事象のメカニズムを明解に説明する、指導教官にはとても出来ない潔さで。
 たまたまネットで放射線の教育用ソフトの取説を見た。私のようにソフトを自前で作る人は普通、他人のプログラムを参考にすることはマレだ。「口で言うより手の方が早い」ではないが、他人のソフトを見て論理の流れを理解するよりも、自分で作ったほうが早いからだ。見てくれは悪いし、バグはあるし、計算速度もノロノロだが、何よりも使い勝手がよいのだ。
 くだんの教育用ソフトだが、ほぼ完璧の出来栄えに思えた。しかし、いったいこのソフトをどんな先生が使うのだろう?設定条件があまりにも専門的すぎるのだ。これは多分、中学や高校の物理教育用のソフトではなくて専門学校か原子力工学科用のソフトなのだろう。だとしても教育用と銘打ってるわりには完璧すぎる。放射線と物質の相互作用を完璧に理解している人にしか分からないソフトだ。だとしたら教育する意味が無いのでは?もう少し半端力を出してソフトを製作すべきではないのか?でも、もしかして、いつものように私が勘違いしてるのかな?

14    砂浜三昧-4
2013-05-28 
遠州灘砂浜測定シリーズも最終回となった。去年1泊2日が2回、今年日帰り2回で、4回目ともなると妙に愛着が湧いてくる。今回は砂浜の放射線の全体像を描くべく、砂丘の端から汀線までを面的に測ることにした。線量率の等高線を引くためである。米津の浜と鮫島海岸を対象にした。
 帰ってから等高線ソフトを走らせたところ、実に特徴的なコンタになった。この測定シリーズを始める前は、モデル化までは無理だろうと思っていたが、ネバレば何かは出てくるものである。砂浜の論文をかなり読み込んで、自分のアイデアとつき合わせていくうちに、ボンヤリとメカニズムらしきものが浮かんできた。有り難き幸せなり。


15    驚天動地
2013-05-07 
数年前、礒崎ほか (2010)の論文 (地学雑誌、119、999-1053)を読んで思わず腰を抜かしそうになった。論文中に「忘れるべきこと」として書かれてあったのは、
・日本列島は北中国地塊の周辺で生まれ、成長した。
・日本列島で最も重要な地質構造はフォッサマグナと中央構造線である。
・中央構造線の起源は白亜紀であり、棚倉構造線に連続していた。
・日本海は観音開きの回転運動で開裂した。
・日本列島の複数の横ズレ断層は1000kmの変位をもち、ある部分はヴェトナムの近辺から移動してきた。
・付加体の成長は常に海側へと前進する方向で起きた。
 これらは構造地質のごくごく常識として私の身に染み付いていたものである。これを忘れろ、と言われても一朝一夕で忘れられるものではない。『日本は戦争に負けました。今日からは民主主義で行きまっせ』と言われたようなものだ。これからは何をよすがに生きてゆけばいいのか...。
 地表γ線の論文を書いたとき、これらの知識を直接的に援用したことは無かったとは思うが、バックグラウンドとして何らかの影響があったはずなのだ。頭の切り替えにどれくらいの期間がかかる分からないが、論文書きのときは安易に上の箇条書きの部分を使わないよう用心せねば。


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