BATTLE ROYALE
〜 死神の花嫁 〜


11

[二つの足音(GO!GO!7188)]

 アイが出発してから8分後に南光子(ミツコ:女子17番)は、部屋を出た。
 建物の出口で周りを見渡し、西側に雑木林を発見すると小走りでそこへ向かった。
 支給された武器を確認するためだ。
 息を切らせながらバッグを開けたが、思わずため息が漏れた。
 10秒ほどそのままの状態で動かなかったが、何かを思い出したように時計を見ると、元来た道を戻った。
 周りに誰もいない事を確認しながら、慎重に本部の建物に近づき、出口から見て左の植え込みに向かって走った。
 168cmの身長を折り曲げて植え込みに入ると、本部の出入り口を凝視した。
 数10秒後、ことん、ことん、という規則正しい音が本部の廊下から聞こえてきた。
 出入り口で音は止まり、一瞬の静寂が訪れた。
 そこからそっと顔を出したのは、吉川亘(コツ:男子19番)であった。
 彼は、事故によって足が不自由になったらしい。
 手術をすれば治るらしいが、吉川家の台所事情のため、簡単に手術を受ける事も出来ないという事だった。
 2年生の時に本人から聞いた話だが、跳んだり、跳ねたりは出来ないものの、松葉杖をつかって日常の歩行を補う事は可能なんだそうだ。
 ただ、杖を突いた時のコツコツという音からコツというあだ名が付けられた事には随分立腹していた。
 コツはミツコがそうしたように、出入り口から慎重に周りを見回した。
 ───まさか、反対の方向に行かないよね
 そう思ったミツコは、コツが建物から出てきた瞬間に慌てて声を掛けた。
「コツ・・・」
 その声に驚いたのか、びくっと肩を震わせて、コツは周りを見回した。
 ミツコは急いで手招きをして、こっちに来るよう促した。 
 そんなミツコに、コツは思わず身構えた。
 2年のときに同じクラスだったが、それほど仲が良かったわけではないので無理はない。
 明らかに疑いの目を向けながら
「何か用?」
 と、そっけなく尋ねるコツに、ミツコは手に持ったモノを突き出した。
 コツは更に警戒心を強めたようなので、ミツコは仕方なく植え込みから出て行き
「これ、あんた用の支給品みたい」
 と、短く言った。
 それでも、理解していないコツに向かって
「ここに長居をしたくないの。出来たら、こっちに来てもらえない?」
 と言ってミツコは先ほどの植え込みを指差した。
「あ、あぁ」
 コツがケンケンをしながら茂みの中に入ると、ミツコは後を追うようにして入った。
 ミツコは再度周囲を見回し、安全を確認してから口を開いた。
「コレ、あの怒矢とかいう担当官が言っていたあんた専用の支給品だと思うの。正直、わたしにはいらない物だし・・・だから、コツに支給された物と交換してもらえない?」
 用心の為にミツコはかなり小さな声で話したが、顔を近づけるようにしていたのでコツには十分聞き取れたはずだ。
 しかし、コツの表情は『ギブスや装具のような物をもらっても、あまり嬉しくない』というものだった。
「ちょっと着けてみなよ、ねっ」
 ミツコはそう言って、強引にコツの足にそれを着けた。
 少なくとも、これよりは役に立つ武器を手に入れなければならないのだ。
 少々、強引なのも仕方がない。
 全ての止め具を付け終え、コツはゆっくりと右足を挙げてみた。
 コツの表情が変わった。
 どういう仕掛けか分からないが、彼の意思通りに足は動いているようだ。
 ミツコには分からない感動が、コツの胸に押し寄せているようであった。
 少し涙ぐんでいるコツの顔を覗き込むようにしながら、ミツコは「どう・・・?」と、訊いた。
 額を掻くフリをして涙を拭ったコツは
「うん。じゃあ、交換しようか」
 と言って、支給されたバッグに手を突っ込んだ。
 ごそごそと手を動かし、自分の支給品を取り出そうとしたその時
「誰か・・・いる?」
 と言って、コツが本部の建物と反対の方向へ目を向けた。
 少しの間を置いて、硬い金属同士がぶつかる鈍い音が鳴り響いた。
 コツが先ほど足に着けた装具に何かが当ったのだ。
「わわっ!」
 思わず身を引いたコツがミツコを突き飛ばした。
 バランスを崩したミツコは、受身を取る事も出来ず、地面に頭をぶつけた。
 目の前に星が飛び、気が遠くなっていく。
 ガサガサと草の擦れる音が二つ、ミツコの耳に届いていたが、昏倒する前に頭に浮かんだのは、ミツコが想いを寄せる“あの人”の事だった。
 そして、数分後。
───誰? そんなに揺すらないでよ 
 頭痛に耐えながら、ミツコはゆっくりと右目を開けた。
「よかった、ミツコ・・・」
 そう言ってミツコを抱きしめたのは女子19番、和田道子だった。
「カーサン・・・どうしたの?」
 ミツコがゆっくり起き上がるのを手助けしながら
「わたしが出口から顔を出したら、茂みの中から手が出ていたの。誰か倒れてるって思ったから慌てて来てみたらミツコじゃない。息はしていたから、とにかく身を隠さないとと思って・・・」
 と、答えた。
「一体どうしたっていうの?」
 やつき早に訊いてくる道子に、何と言えばいいのか分からず
「分かんない・・・というか、ちょっと複雑なんだ」
 そう言って、バッグを捜した。
 記憶が途切れる瞬間、コツが逃げたのは分かっていたが、交換されるはずの武器が入っていたバッグも彼が持って行ったようだ。
「ミツコ、ここから離れないと・・・」
 道子に促され、ミツコは自分に支給されたバッグを持って、よろよろと立ち上がった。
 ───スタート直後にこんな目に会うなんて、ツイてない・・・
 ミツコは泣きたい気持ちで一杯だった。

【残り 36人】


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