BATTLE
ROYALE
〜 死神の花嫁 〜
12
[青い影(プロコルハルム)]
月明かりだけを頼りに、中村さくら(サクラ:女子12番)は道なき道を歩いていた。
佐々本大吾(ダイゴ:男子07番)と合流するためだ。
ダイゴは怒矢担当官や防衛軍兵士のいる前で危険を承知しながらも、サクラに合流場所を告げた。
しかも、サクラの好きな和歌を暗号としてくれたのだ。
「暁の 水面に映る 神の座 我が身と共に 土に帰らん」
は、合流場所と時間を示していた。
“暁の”は、日が昇る頃。
“水面に映る 神の座”は、海神を祭った神社。
“我が身と共に 土に帰らん”は、ダイゴの決意を表していた。
サクラは、ダイゴと一緒にいられるのなら、例えあの世でもよいと思っていた。
最期は一緒に居ようというダイゴの気持ちが何よりも嬉しかったのだ。
早くダイゴに会いたいという気持ちが、サクラの足を速めていた。
しかし、方向を確かめずに進んでいた為、随分遠回りをしてしまったのだ。
北西の方向に進んでいるつもりだったのだが、東南東に向かっていた。
進んでいく方向に駅舎が見えた時、サクラは初めて地図を開いた。
「こ、ここからまっすぐ海岸沿いを行けばいいじゃない」
自分を励ますように言ったものの、不安は胸一杯に広がっていた。
時計を見ると2時30分を少し回った所だ。
時間的に全てのクラスメイトが出発をしている。
中にはやる気になっている者もいるだろう。
サクラは支給品であるシャムシェールという奇妙な形の刀を握り締め、夜道を急いだ。
海岸線に出ると、月明かりに照らされた海が広がっていた。
海岸べりは砂浜ではなく、崖となっていて“プログラム”でなければ、座り込んで眺めていたくなるような美しい景色だった。
やがて雲が月を覆い隠し、闇に視覚が奪われた。
落ちている石ころに足を取られないように、慎重に歩を進めていたサクラの右手の茂みからガサガサと音が聞こえてきた。
サクラが息を呑んで茂みを凝視していると、そこから色の白い男子が姿を現した。
よく見ると、我が校・・・いや我が町のスター、森田晃一(スター:男子16番)だった。
「も、森田君?」
サクラが声を掛けると、スターは驚いてひっくり返りそうになった。
「な、な、中村・・・さくらさん?」
スターは、目を細めながらサクラの方を見た。
スターの視線がシャムシェールに向いている事に気づき、サクラは慌てて手を後ろに回した。
「だ、大丈夫よ。わたしはヤル気になんてなっていないから・・・」
と、振るえながら言うと
「ぼ、僕もだよ、安心して」
と、スターが同じように言った。
お互いの言い回しが可笑しくて、どちらともなく噴き出した。
「わたしはダイゴに会いに行くんだけど、森田君は?」
サクラが訊くと、スターの顔が少し曇った。
「残念だけど、あのクラスに未だ友達はいないんだ。仲の良かった連中は別のクラスになっちゃったからね。だから、信用できる友人も誘ってくれる人もいないんだ・・・」
「でも、岡田君たちにチョッカイを掛けられた時に何人かが助けてくれたじゃない」
サクラの言葉で、スターの顔が少し明るくなった。
「そうだ、行武君なら僕と一緒にいてくれるかもしれない。色々と教えてくれたし・・・」
笑顔を浮べたスターの表情は、テレビに出るだけあって、すごく素敵だった。
ダイゴがいなければ、サクラも彼に夢中になったかもしれない。
「ありがとう、中村さん」
スターは、サクラの手を握ると、大げさに振った。
その笑顔に思わずつられて笑顔を浮かべたサクラだったが、その表情が一瞬で強張った。
スターの肩越しに別の人影が見えたのだ。
誰何の声を上げる前に、影は攻撃をしてきた。
ギンッという金属のぶつかり合う音が闇に響く。
スターの背中に何かが当ったのだ。
「うっ・・・」
スターがよろめいて、サクラに抱きつくような格好になった。
「だ、大丈夫、森田君」
「幸い僕の支給武器は忍者刀なんだ。背中に括りつけるものだったから助かったよ」
青い顔をしたサクラをかばいながらスターは言ったが、その額には汗の玉が浮かんでいた。
やがて雲が流れ、月が再び姿を現した。
「そ、そんな・・・」
スターの絶句は、サクラの頭の中でも響いた。
月光を受けてたたずむ影の正体は、今しがたスターが名を挙げたハンゾーこと行武康裕(男子18番)だったのだ。
「ハンゾー君、中村さくらよ。こっちは森田君なの。私たち、別にやる気じゃないわ」
サクラの言葉に、ハンゾーは無表情だった。
ゆっくりと右に移動した二人を目で追っている。
次の瞬間、全く表情を変えずに左手を上げると、思い切り腕を振り降ろした。
「ぐうっ」
スターが、腹を押さえてうずくまった。
「森田君!」
助け起こそうとしたサクラをスターは押しのけ
「逃げるんだ・・・はやく・・・・・・」
と、言った。
出血はしていないが、かなりダメージを受けているのが分かる。
躊躇しているサクラに
「大丈夫、何かの間違いさ。ハンゾー君は僕だと分かれば攻撃しない」
と言って笑顔を見せた。
それでも涙を浮べて動かないサクラに向かって
「ダイゴ君の所へ・・・早く」
と、言って背中を押した。
ようやく走り出したサクラを見送る事なく、スターはゆっくりと背中の刀を抜いた。
【残り 36人】