BATTLE
ROYALE
〜 死神の花嫁 〜
13
[NO COMMENT(セルジュケンズプール)]
森田晃一(スター:男子16番)は、行武康裕(ハンゾー:男子18番)と対峙した。
中村さくら(サクラ:女子12番)の為に時間を稼ごうという訳ではない。
まだ、この状況が信じられなかったのだ。
「ハンゾー君、どうして君みたいな人が・・・ヤル気になったんだ」
芝居じみたセリフだったが、それは本心だった。
他の連中はともかく、温和でいつも笑顔を絶やさないハンゾーが襲ってくるなど、思いもしなかったのだ。
スターの問いかけに、ハンゾーは攻撃で答えた。
ハンゾーの武器は、黒いナイフのようなモノだった。
飛来するナイフを刀で全て叩き落したスターは
「これでも僕は“ドライダーマスク”のオーディションに受かったんだからね。これくらいの事は出来るよ」
と、言ってニコッと笑った。挑発するでもなく、勝ち誇った訳でもない。純粋に、芸能人としての営業スマイルのような笑みだった。
対照的に、全く無表情なハンゾーは、ナイフをいくつか手のひらに乗せて様子をうかがっている。
それを見たスターは
「間違いじゃ・・・ないんだね。本気で僕を襲ったんだ・・・・・・」
と、寂しそうに言った。
それでも表情を崩さないハンゾーに、スターは斬りかかった。
「君を・・・信じていたのに!」
斬るというより、殴るという方が正しいかのようにスターは刀を振るった。
金属同士のぶつかり合う甲高い音が何度も鳴り響く。
先ほどスターがそうしたように、ハンゾーも全ての攻撃を受け止めているのだった。
二本のナイフを交差させて刀を受け止めたハンゾーと顔が接近した。
スターにはハンゾーが全くの別人のように見えた。その気後れした一瞬をハンゾーは見逃さなかった。
半歩ほど下がったハンゾーにつられて、スターは前方へつんのめった。
その無防備になった腹に、ハンゾーの前蹴りが容赦なく叩き込まれ、スターは崩れ落ちた。
蹴りが入ったのは、一撃目にナイフを喰らった個所だったのだ。
しゃがみこんだスターの頭部にナイフが振り下ろされようとした、その瞬間
「ふうっ」
という呼気と共にスターはバック転をして逃れた。
奇しくも、それは目の前にいるハンゾーに習ったものだった。
それを見ても、ハンゾーは無表情のままスターを攻撃してきた。
まるでミサイルのようにナイフを投げつけてきたのだ。
刀で打ち落とす間も与えられないほど連続で、強烈な投擲であった。
スターは、一定の距離を置くためにバック転を繰り返した。
3度目に着地した時、いくつかのナイフが足元をかすめて行った。
射程距離ギリギリまで離れたのだ。
顔はハンゾーの方を向いたまま目だけを動かして周りを見た。
後ろと左には絶壁があり、右は草原だ。
幾分、岩が露出しているが右に行った方が戦い易い。
そう判断したスターは、少しでも動き易いように、背中にくくり付けていた鞘を外し、その場に置いた。
───他の人はともかく、ハンゾー君だけは殺せない。それなら・・・
スターは、刃を返した。
峰打ちなら、間違ってもハンゾーを殺すような事にはならない。
体の一部を打てれば、暫く動けなくなるはずだ。
このまま右方向に移動すれば、計算どおりになる。
そのスターの思惑を感じ取ったかのように、ハンゾーが左に動いた。
───よし!
スターは、右に向かって駆け出した。
すると、それを予想していたかのようにハンゾーが方向を変え、スターの方へ直進してきたのだ。
泡を食ったスターは、届かないと分かっていながら必死で刀を振った。
余裕で避けたハンゾーは、大きく左から回り込み、スターの後ろに回った。
慌てて振り向いたスターの目にハンゾーの表情が飛び込んできた。
無表情のままハンゾーは一歩一歩近づいてきていた。
───もう一度、距離を取るんだ。
スターは後ずさりをするように下がった。
突然、その足に何かが引っかかり、転倒しそうになった。
反射的にバック転をしたが、着地点で更に足を取られた。
追い討ちを掛けるようにハンゾーがナイフを投げてくる。
「くそっ!」
猛攻を受け、後方に下がらざるを得なくなったスターは、再度バック転を敢行した。
それがスターにとって最後の跳躍となった。
着地点に地面は無かったのだ。
ハンゾーがナイフに細い糸を付け、この辺りに罠を仕掛けていたのだと気付いたスターは、刀を地面に突き立てようとした。
刀は岩に刺さったものの、片手で自身の体重を支える事など、負傷したスターには出来なかった。
流星のように崖下に消えたスターの衝突音を、波が掻き消した。
刀を回収したハンゾーが崖下を一瞥すると、大の字に横たわるスターの遺体が見えた。
何度も崖に打ち付けられたにも関わらず、その顔には奇跡のように傷一つ付いてはいなかった。
【残り 35人】