BATTLE ROYALE
〜 死神の花嫁 〜


14

[僕の恋愛事情と台所事情(TOKIO)]

 ハ−四にある神社で佐々本大吾(ダイゴ:男子07番)は恋人を待っていた。
 自分より後に出発する中村さくら(サクラ:女子12番)である。
 サクラの足でも、十分に到着できる時間をとっくに過ぎていた。
 待つ身のダイゴにすれば1分、いや1秒でも早くサクラに会いたかった。
 デートのようだが、この待ち合わせには、それ以上のスリルと恐怖に満ち溢れていた。
 ダイゴには2つの心配があった。
 一つは、サクラが自分の詠んだ句を正確に理解してくれたかという事。
 例えあれが暗号だと気付いても、サクラが解読できなければ意味はない。
 そして、もう一つは、サクラがここに来るまでに誰かの手にかかってしまう事だ。
 ダイゴの出発は13番目だったので、サクラ以外に20人以上が、あの句を聞いている。中にはサクラよりも早く解読し、待ち伏せをする者がいるかもしれない。
 それを考えると、もどかしさが募るばかりであった。
 支給された時計と周りを交互に見ていたダイゴの視線が止まった。
 神社の鳥居を背にして左の方向から誰かが来るようだ。
 ダイゴは鳥居の傍にある植え込みに身を隠した。
 黒い影はゆっくりと、しかし確実にこちらに向かってくる。
 ダイゴは自分に支給されている武器を握り締めた。
 ───サクラじゃないなら、早くどこかに行ってくれ・・・
 心の中で思わず祈った。
 鳥居の前で立ち止まり、周りを探っているその姿を見て、ダイゴは植え込みから顔を出した。
「こっちだ、サクラ」
 出来るだけ小さな声で言ったつもりだったが、サクラはびくっと肩を震わせた。
 きょろきょろと周りを見渡し、ダイゴを見つけると、突進するように走ってきた。
「サクラ・・・」
 感激のあまり、植え込みを突っ切って飛び出したダイゴは、サクラをしっかりと抱きしめた。
 これまで何度か同じように抱きしめたが、涙が出るほど嬉しかったのは、初めて夜を共にした時以来だった。
「あんまり遅いんで、心配していたんだぞ。誰かにやられたかと思ったよ」
 サクラの耳元で囁きながら、自分の額をサクラにこすりつけた。
 いつものサクラなら「もう、ダイちゃん」と、じゃれるような口調で言うのだが、今日は違った。 
「ダイちゃん、ここを離れた方がいいわ」
 と、ダイゴの胸から逃れるようにしながら言ったのだ。
 いつもと違う行動に怪訝な顔をしていると、サクラはダイゴの手をひっ掴んで駆け出した。
 サクラの勢いに気圧されたダイゴは、されるがままに従っていた。
 体格のよいダイゴが無理に立ち止まれば、サクラの激走を止める事は可能だろう。
 しかし、只ならぬサクラの雰囲気が、そうはさせなかった。
 海岸沿いをひた走り、たどり着いた場所はハ−3に位置する砂浜だった。
 ようやく立ち止まったサクラは、まず周りを確認した。
 人影が見当たらない事を確認して、ようやく岩に腰かけた。
 ダイゴはサクラの行動に動揺しながらも隣に座った。
「何か・・・あったのか?」
 恐る恐る尋ねるダイゴの方をサクラは振り返った。
 下唇を噛むのは、何か言い出しにくい事がある時の癖だ。
 それを察したダイゴは、先に自分の気持ちを切り出した。
「あのな、サクラ・・・来てくれたっていう事は、あの句を理解してくれたんだと思うんだ。幸い、オレに支給された武器を使えば苦しまずに済みそうだし・・・」
 そう言って、ダイゴはずっと握っていた武器をサクラに見せた。
 ダイゴに支給された武器、それはコルトM1851ネイビーという銃だった。
「こんな・・・殺し合いなんて、オレには出来ないよ。それならサクラと、ここで・・・」
 ダイゴは銃のグリップを握り締めた。
 本部で“プログラム”の事を聞いてから、ずっと考え続けた上での苦渋の選択だった。
 幸い、サクラの武器は妙な形の刃物だ。
 サクラに刺されて死ぬのなら、それも悪くない。銃を使えば、彼女は痛みも感じず逝けるはずだ。
 きっといつものように「ダイちゃんが、思う通りにしていいよ」と、賛成してくれる。
 そう考えたダイゴは、出来るだけ優しい笑顔を作った。
 しかし、サクラは突然立ち上がると
「わたし、最初はダイちゃんと死ぬのならそれでもいいと思った。でも・・・今はイヤ・・・ダイちゃんの弱虫」
 と、言った。
 黙って殉じてくれると思っていたダイゴは、面食らった。
 思いもよらない言葉にオロオロしているダイゴに、サクラは眉を吊り上げながら言った。
「何よ、死ぬなんて。森田君でさえ私を守ってくれたっていうのに、何でダイちゃんがそんな事を言うのよ」
 ヒステリックにモノを言うサクラに対してより、その言葉の内容にダイゴはムッとした。
「森田? 森田と何があったんだ」
 サクラにつられるように、ダイゴもケンカ腰で問い詰めた。
「心中しようなんて言う人に説明する必要は無いわ」
 サクラが目に涙を浮べながら言うのを目の当たりにし、ダイゴの中で何かが音を立てて壊れた。
 サクラの事を第一に考え、一生懸命出した結論なのに、スターと何かあっただけで自分を否定されるなんて、ダイゴには信じられなかった。
 怒りに任せ、サクラの腕を掴むと「オレと一緒に死ぬんだ!」と絶叫した。
「嫌よ、何で一緒に死ななきゃいけないのよ」
 掴まれた手を振り解こうと、サクラは必死で抵抗を試みてきた。
 ダイゴも負けずに握り直し
「最後に二人が残ったって、一人しか帰れないんだぞ。そんな事になるくらいだったら、オレ達で幕を引いた方が・・・」
 と、大声で言った。
 それでも、サクラは全く聞く耳を持たずに抵抗を続けた。
 ドラマのような美しい最期を思い描いていたダイゴの目論見は脆くも崩れ去り、ドロドロとした昼ドラのような結末へと向かっていた。
 ダイゴはサクラを突き飛ばすと
「サクラ、オレもすぐ行くよ。さようなら・・・」
 と言って銃を持ち上げ、サクラに突きつけた。
 ダイゴの目から涙がこぼれ落ち、砂にしみこんでいく。
 引鉄に力を込めたダイゴを、闇から現れた黒い影が突き飛ばした。
 不意を突かれたダイゴは、不様に転倒した。
「早く・・・逃げて!」
 黒い影はサクラを立たせて逃がすと、自らも別の方向へと駆け出した。 
「うわあああああ、サ、サクラ!」
 ようやく我に返ったダイゴは、四つんばいのまま絶叫した。
 その声に驚いた黒い影は、何度も転びながら砂浜を逃げて行き、やがて見えなくなった。
 荒い息を吐きながら、ダイゴは周りを見渡した。
 黒く塗りつぶしたような海岸には、ダイゴ一人がとり残されていた。

【残り 35人】


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