BATTLE ROYALE
〜 死神の花嫁 〜


16

[この町いつも〜貧ちゃんのうた〜(斎藤彩夏)]

 デメキンとホラの珍バトルが行われている頃、手塚晶子(カエル:女子11番)はチ−5にいた。
 暗闇の中をここまで歩いてきたのだが、緊張感と怖さのあまり支給品のバッグを抱えてしゃがみ込んでしまったのだ。
 誰か気の許せる友人が一緒に居てくれれば、励ましあって進むことも出来ただろう。

 今になって、同じ水泳部の西村篤子(あっちゃん:女子13番)を待たなかった事を悔やんだ。
 晶子の容姿を元に“カエル”というあだ名をつけた張本人だったが、水泳のライバルとしてある意味で認めていたので、他の連中に比べれば比較的信用できる間柄だったのだ。
 自分と篤子までの間に3人居たが、冷静に考えると、やる気になりそうな危険人物は含まれていなかったので、篤子が出てくるまで、建物の近くに隠れていればよかったのだ。
 後悔を胸の奥にしまい込みながら、カエルは立ち上がって歩き始めた。住宅街はもう目の前だ。
 少し離れた場所から見る住宅街は、巨大な生き物を思わせ、再びカエルの足をすくませた。
「どこか家を見つけて、隠れなきゃ」 
 自分を勇気付ける為に、わざと口に出して言い、歩を進めた。
 きょろきょろと道路の真ん中で家を物色していると、塀の陰からひょいっと誰かが顔を出した。
「ひっ」
 恐怖で口の中は乾き、逆に額からは汗が噴出してきた。
「だ、だれ?」
 相手を威嚇しようと、精一杯大きな声で言った。
「カエルちゃん? 私、サダコ・・・」
 小柄な体躯から小さな声が聞こえた。
 確かに一文字貞子(サダコ:女子03番)だったので、カエルは少し胸を撫で下ろした。
 サダコとは同じ小学校で、昨年も同じクラスだったので、それほど警戒するようなことも無いと思ったのだ。
「サダコも家に隠れようとしてたの?」
 カエルが尋ねると、サダコは首を横に振った。
「欲しいものがあったから、ここに来てみたんだ。思ったように見つからないから、後にしようかと思って・・・」
 そう言ったきり、うつむいてしまった。
 サダコが何を欲しがっていたのか分からないが、その様子から寂しさのようなものを感じた。 
「あのさ、もし良かったら一緒に隠れない? 二人だと色々と便利だと思うんだ。交代で眠ったりも出来るし、何よりも心強いじゃない・・・」
 カエルは思い切って、サダコを誘ってみた。それを聞いたサダコはハッと顔を上げたが、恥かしそうにモジモジしながら、またうつむいてしまった。
「ありがとう、でも・・・ダメなんだ」
 と、サダコが答えた。
「えっ、なんで?」
 予想外の返答に、カエルは少しムッとしながら訊いた。
「それは・・・」
 サダコは言葉を切ると、両手を振り上げた。その手に握られたモノが月光を受け、無気味に光った。
「ココであなたが死ぬからよ」
 サダコの手に握られた鉈が一気に振り下ろされた。
 反射的に支給されたバッグで頭をかばった。鉈が深々とバッグにめり込んでいた。
「ひいいぃ」
 カエルはそれを見てへたり込んでしまった。
「動くと、痛いよ。鶏を絞める仕事をした時もそうだった。暴れる鶏のほうが苦しそうに死んでいったわ。じっとしていればすぐ終わるから」
 サダコの物騒な言葉を聞いて、カエルはジリジリと後ろに下がった。
「なぜ? あんたがプログラムに乗るなんて・・・信じられない」
 カエルの目には涙が滲んでいた。何かの冗談だと思いたかったが、サダコはそんな性格ではない。
 間違いなく、本気で殺そうとしてきたのだ。
 ブルブルと震えているカエルとは対照的に、サダコは普段通りの調子で
「だって、優勝したら生活が保障されるのよ。しかも一生の間、ずっーと。私の生活費が浮けば、その分だけ家族は楽な生活が出来るじゃない」
 と、言った。
 サダコは淡々と言っているが、カエルには到底理解できる話しではなかった。
「お、おかしいよ、金の為に人を殺すなんて。あんた、絶対におかしい!」
「じゃあ、何の為ならいいの?」
 サダコもカエルの言葉が理解できないように首を傾げながら訊いた。
「・・・・・・」
 カエルは答える事が出来なかった。
 例えこの状況でなくても、答えることは出来なかっただろう。
 黙っているカエルに
「あと35人が死なないと優勝できないの。カエルちゃん・・・最初に死ぬのは、あなたよ」
 ため息を吐きながら言うと、サダコは再び鉈を振り上げた。 
 その時、銃声が鳴り響いた。
 ホラが、岩の上から転げ落ちながら撃ったものだった。
 この銃声が運命を分けた。
 驚いて身をすくめ、周りを見渡したサダコに対し、カエルは立ち上がって一気に駆け出したのだ。
 追い詰められて頭の中が空っぽになっていたカエルの体が“号砲=スタート”として、自動的に反応してくれたのだった。
 脱兎のごとく駆けて行ったカエルに追いつく事など、運動が苦手なサダコには出来なかった。
「やっぱり、銃がいるな・・・」
 ぼそりとつぶやくと、サダコは再び住宅街へと消えて行った。

【残り 35人】


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