BATTLE ROYALE
〜 死神の花嫁 〜


19

[U'S PLOFILE(MCU feat TAKUYA)]

 本田耕作(男子14番)は、坂を駆け降りていた。
 藪の中で待ち伏せをし、狙い通り女子を仕留めたのだが、死角になっていた場所から別の女子が踊り出てきたのだ。
 慌てて弾を込めて撃ったが、ほんの数瞬しか足止めをする事が出来なかった。
 予備の弾を取り出す間が無かったので、逃げるしか手が無かった。
 何度も後ろを振り返りつつ速度を緩めると、耕作は足を止めた。追撃をされていないのが判ったので無駄に体力を使いたくなかったのだ。
「ちっ、あいつが出てこなかったら、もう一人を始末してデカイ銃が手に入ったのに・・・」
 耕作はつぶやいた。
 先にカーサンを狙ったのは、反撃をさせないため、そして彼女の持つ銃を奪い取るためだった。
 もう一人の女子は手に何も持っておらず、それほど機敏でもなさそうだったので、余裕で倒せると踏んだのだった。
「死んだのが和田道子で、逃がしたのが南光子。邪魔をしたのは・・・藤井っていうヤツか。みていろよ、絶対に殺してやるからな」 
 耕作は神崎千代(女子04番)から奪ったファイルを取り出すとアイのページを開き、既につけていた○印を塗りつぶした。
 他の何人かも同じように○印を付けている。
 この印には、法則があった。
 ファイルに記載されている“戦闘力”という項目に『甲』の評価がある者、それと“性格”という欄に記載された事項から、ヤル気になっていると思われる者だ。
 男女を合わせても4〜5人程度だったので、名前はともかく、顔はしっかりと覚えるようにしたのだ。
 ○印の付いている者との戦闘は極力避け、弱そうな者から順に倒していく。
 必然的に武器も増えていく事になるし、あわよくば、残った連中で同士打ちをしてくれる可能性もある。そうなれば、耕作が優勝にぐっと近づくのだ。
 自然に浮かんでくる笑みを、口元を歪めて抑えた。
 人の気配がしたのだ。
 用心深く周りを見回すと、左の方向で黒いモノが動いた。
 弾を込めたデリンジャーをそちらに向けながら
「そこに隠れているのは、誰だ」
 と、言った。
 数秒の沈黙の後、楡の木の影から男子生徒が姿を現した。
 ───誰だ、コイツ
 頭の中でファイルのページをめくったが、思い出す事は出来なかった。
 つまり、少なくともコイツは○印の付いたヤツではない。
 そう考えながら相手を見ていると、松葉杖を持っている事に気付いた。
 あまりにも明確な特徴で、記憶が蘇ってきた。
 確か、出席番号が一番最後の、吉・・・何とかというヤツだ。
 恐らく、ヤル気になっている者を恐れて身を隠していた所に、たまたま耕作が訪れたのだろう。
 足が不自由なら当然の事だと思った。
 ───コイツか・・・
 耕作は、満面の笑みを浮かべた。
 足が不自由なので、逃げようとしても余裕で追いつける。
 戦う事になったとしても、もやしのような体格からは格闘戦の経験を感じない。
 例え、銃を支給されていたとしても、手にしている松葉杖と持ち替えなければならない。
 全ての条件が、耕作に圧倒的な優位を告げていた。
「くっ、くっ、くっ・・・」
 表情だけでなく、嘲けるような笑い声までもが口から漏れた。
 先ほどのように、押し殺す必要など全く無いのだ。
 ここで始末するのだから。
 その瞬間、獲物は駆け出した。
「あっ」
 精神的な余裕が耕作の行動を遅らせた。
 坂道を全力で駆け上がりながら追跡したものの、距離は縮まらない。耕作が遅いのではなく、獲物の足が予想外に速かったのだ。
 とても、片足が不自由だとは思えなかった。
「てめえ、待ちやがれ!」
 無駄と知りつつ、叫んだ。
 相手を動けなくした訳でもないのに、勝ち誇ってしまった自分の迂闊さに腹が立った。
「どいつも、こいつも・・・」
 足を止めた耕作は、遠く離れて行く背中に向けてデリンジャーを撃った。
 小さくなっていく的に当たるはずも無く、弾は全く見当違いの方向へと飛んでいった。

【残り 33人】


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