BATTLE ROYALE
〜 死神の花嫁 〜


22

[13 is my luckynumber (THE WILLARD)]

 アイ達3人がいなくなって15分も経った頃、西村篤子(あっちゃん:女子13番)は、茂みの中から這い出した。
 涙を拭った後、口から零れた第一声は「何で私ばっかり・・・」だった。
 篤子は、本部から出発する際、建物の周りを随分と探し回った。
 一番仲の良い天地里美(サトミ:女子02番)は出発順の関係でいないと思っていたが、同じ水泳部の手塚晶子(カエル:女子11番)は、物陰に隠れて篤子を待っていてくれるのではないかと考えていたのだ。
 福間法正、中村さくら、洞山和生という比較的おとなしい3人をやり過ごせば、合流する事も可能だというのに、カエルは待っていなかった。
 動揺を抑えつつ、出発時に手渡されたバッグを開けたが、支給された武器を見ても絶望的な気分が増加しただけだった。
 バッグに入っていたのは、マッチと花火のセットだったのだ。
 途方に暮れている時間は無かったが、篤子には行くアテも無かった。
 とにかく、身を守る事さえ出来ないような状況なので、隠れる場所を求めて、住宅街へと向かった。
 家屋に入ってしまえば、大勢に襲われない限り、そう簡単に殺されるような事は無い。
 目的を持った篤子の足取りは少し軽かった。
 暗闇の中を手探りの状態で進み、ようやく住宅街にたどり着いたところで、信じられない光景を目にした。
 カエルが一文字貞子(サダコ:女子03番)に襲われていたのだ。
 先ほどまでカエルに感じていた友情はどこかに吹き飛び、篤子は一目散に逃げ出した。
 助けようという気は全く起こらず、頭の中は逃げる事で一杯だった。
 足をもつれさせながら、ある家の庭に転がり込んだ時、篤子の耳に玄関のドアが開く音が聞こえた。
 息を潜めて音のした方向を見ると、誰かが外に出てくる所だった。
「じゃあね〜」
 軽い口調の声に聞き覚えは無かったが、それほど敵意を感じなかった。
 ───誰かいるかも・・・
 篤子は、無意識のうちに、その家に上がりこんでいた。
 玄関を入り様子をうかがったが、人の気配は無い。
 ただ、錆のような金属的な臭いが鼻に届いた。
 ゆっくりと中に入ると、突き当たりの部屋から明かりが漏れている。
 篤子がそっと中を覗くと、中には神崎千代(チヨ:女子04番)がいた。
 正確に言うとチヨだったモノが・・・。
 先ほど出てきた男子の仕業か、チヨの額には火の点ったローソクが乗せられていた。
 まるで、怪しげな儀式の生贄にされたようだった。
 篤子はその場から逃げるようにして飛び出し、山の方へ向かって駆け出した。
 がむしゃらに走り、たどり着いたのがチ−7だ。
 このエリアは、緩やかな斜面が雑木林のようになっており、身を隠す場所が到る所にあった。
 名前も知らない丈の長い植物が群生している個所に身を落ち着けたものの、いつ襲われるかもしれないという恐怖が、休息を許さなかった。
 それでも空が明るくなり、見通しが良くなってくると気持ちが少し和らいだ。
 その直後に午前6時の放送が始まった。
 担当官のだみ声によりチヨの名前が呼ばれたことで、あの凄惨な光景が頭の中に蘇ってきた。
 思考能力が麻痺しそうになるのを何とか堪え、禁止エリアを地図に書き込んだ所で吐き気が襲ってきた。
 口元を押さえ、雑木林の間から顔を出そうとした時、篤子の正面に黒いモノが現われた。
 慌てて元の場所に戻り、隙間からそっと覗いてみたのだが、その人物は明らかに篤子の方を見ていた。
 ───どうしよう・・・ 
 迷っていると、篤子の左側にある草むらが音を立てた。
 ブナの木と草むらの間に見える長身のシルエットは、バレー部の南光子(ミツコ:女子17番)だ。
 立ち上がりかけているミツコの方に向かって、篤子の正面にいる人物が駆け出した。
 そこで初めて正面にいたのが学級委員長の東輝久(テル:男子01番)だというのが分かった。
 二人が親しげに話すのを見て、篤子も腰を上げた。
 ひょっとしたら、仲間に入れてもらえるかもしれないと思ったのだ。
 次の瞬間、テルは腰から銃を抜いた。
 慌てて頭を下げた篤子は、その姿勢のままオシリの方向に下がった。
 5mほど下がった時に銃声が響き、ほとんど間を置く事なくミツコが倒れた。
 長い手足を投げ出すように倒れているミツコの息が無いのは確認するまでも無い。喉の真ん中を銃で撃ち抜かれて生きている人間は、恐らく居ないだろうから・・・。
 ミツコが射殺される一部始終を目撃した篤子の目から涙が出てきた。
 今まで、これほど涙を流した事は無いと断言できるくらい、とめどなく溢れてきた。
 藤井亜衣(アイ:女子15番)が吉川亘(コツ:男子19番)と取っ組み合いを始め、その後に現われた行武康裕(ハンゾー:男子18番)と相打ちになるまで延々と涙は流れ続けた。
「何で私ばっかり・・・」
 涙を拭って呟いたものの、誰も答えてはくれなかった。
 放心状態でいる篤子の前にはミツコの遺体がある。
 手足を投げ出すように倒れているミツコはドラマに出てくる死体役のように現実味がなかった。
 ぼんやりとミツコを眺めていた篤子の頭に、ある事がひらめいた。
「あ、ああ・・・そうよ、私は逆に運が良いんだわ。だって、カエルちゃんの時も、チヨの時も少しタイミングがずれていたら、私が死んでいたんだもの・・・今だって、ミツコが来なかったら私が撃たれていた。ラッキーだったのよ、私は!」
 頭に浮かんだ事を、再確認するかのように口にした篤子はすっと立ち上がった。
 吹っ切れたかのようなその立ち姿は、奇妙な自信に満ち溢れていた。

【残り 32人】


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