BATTLE
ROYALE
〜 死神の花嫁 〜
≪第二部 序盤戦≫
6
[Startin’(角松敏生)]
東輝久(テル:男子1番)は、ゆっくりと立ち上がり、教卓へ歩いて行った。
いつもと同じ表情を保とうとしているが、頬の筋肉が歪んでいるのが分かる。
不良どもと渡り合う度胸はあっても、プログラムとなると話が違う。
だが、心の準備は、もう出来ていた。
いよいよ“プログラム”が始まるのだ。
テルの心臓が普段よりも速く拍動をしていた。
3年2組の全員が見つめる中、教卓の前まで行きバッグを受け取ろうと手を出した。
しかし、二人の担当官補佐は微動だにしない。
「早く荷物をくれ」
痺れを切らして、蔵神に言った。
じろりと睨みつけてきた蔵神が口を開いた。
「宣誓をしてもらおう・・・」
年齢の割には渋い声だという印象を受けた。
「宣誓?」
テルは、思わず自分の後方を向いた。
訊き返したのは、不良グループのナンバー2と言われる古賀英次(エッジ:男子6番)だったからだ。
「出発をする前に『私たちは殺し合いをする。殺らなければ、殺られる』と、この場で言ってもらう。それを以って宣誓とする」
蔵神はテルやエッジだけでなく、全員に説明をするように言った。
テルが視線を戻す際、前から3番目に座っている神崎千代(チヨ:女子04番)が視界に入った。
元々、神経質なチヨは、震えながら親指の爪を噛んでいた。
足は貧乏ゆすりのように小刻みに動き、目もうつろながらキョロキョロと動いている。
只事で無い雰囲気に、チヨの精神が呑まれていっているのだ。
───他の奴からは、オレもあんな風に見えているのだろう・・・
テルが自虐的に考えていると、それまで黙っていた怒矢が急に口を挟んだ。
「ハイハイハイ。お前たち、蔵神担当官補佐が無茶苦茶な事をさせていると思っているんじゃあないか? 違う、違う。よーく周りを見てみろ。そう思っているのは自分だけで、他のみんなは・・・やる気になっているぞ」
真剣な口調で言う怒矢に触発され、何人かが周りを見た。
誰かと目が合うと、すぐに視線を逸らしたり、逆に睨み返したりしている。
いよいよプログラムが開始されるという独特の雰囲気から、さらにドス黒い空気が部屋の中へ満ちていった。
───上手く煽るじゃないか・・・
テルが思った通り、精神的に弱い生徒達は、確実に疑心暗鬼へ陥っている様子だった。
それまで何となくあった小声で打ち合わせをしようという雰囲気が、瞬時に無くなったのだ。
異様な緊張感の漂う中、みんなの視線を集めるかのように口を開いた。
「オレは殺し合いをする。殺らなきゃ、殺られる」
低い声で言い「どうだ」と言わんばかりに蔵神の方を睨んだ。
蔵神と呼ばれた担当官補佐は、テルの事など意に介していないようで、キャスターに山積みになっているバックの中から一つを選ぶと、それを無造作に放り投げるようにして渡した。
バッグをキャッチして、蔵神を再び睨みつけてやった。
張りつめた空気の中、もう一人の担当官補佐、紗紅イズコが初めて口を開いた。
「男子1番、東輝久・・・」
テルは思わずイズコの方を向いた。
同じように、クラスメート達全員の視線がイズコへと集まっている。
イズコは、名前を呼ばれたテルが振り向くのを待っていたかのように、絶妙のタイミングでドアの方を指差すと
「オイキナサイ・・・」
と言った。
───何て冷たい声だ
テルは寒気を感じ、軽く身震いをした。
この場から離れようと足を踏み出した時
「扉を出たら、廊下を左だ。突き当たりを右に行くと出口になっている。廊下や出口でウロウロしていたら撃ち殺すからな」
怒矢がダミ声を張り上げて言った。
ふんっ と、鼻息で返事をして部屋を出た。
先程から入れ替わりで教室に入ってきた兵士たちが、廊下の両端にキチンと整列している。
それ以外にも10数名の兵士が小銃を胸に抱えて並んでいた。
その後ろにある廊下の窓には、部屋と同じように鉄板が張ってあった。
外から銃撃する事も無理だということだ。
顎で合図され、廊下を歩いた。突き当りを右に折れると5メートルほど先に出口が見えた。
そこには蛍光灯が灯っている。
急いで駆け出し、バッグの中の武器を確認した。
ブローニングハイパワー
当たりの武器だった。
しかし、今の段階でそれを使うべきではない。すぐに銃をズボンと腹の間に突っ込むと、今度は自分のカバンを開いた。
ごそごそと中をかき回し、目的のものを取り出した。
───これならいい。
手早く荷物を一つにまとめると、残りを植え込みの中に突っ込んだ。
もうすぐ秋山蘭(ラン:女子1番)が出てくるはずだ。
そう考えたとき、ランが出口から姿を現した。
慎重に周りを見回していたランの目が止まった。そのまま、こちらを見ている。
「何か用か?」
ランが口を開いた。
テルは無言で手に持ったザイルを突き出した。
「悪いけど・・・死んでもらうぜ」
テルの言葉に、ランは少し眉をひそめた。そして足元の石ころを拾い上げると、左手で放り上げて弄び始めた
「まさか、あんたが乗るとは思わなかったよ。あんたの武器はそれかい?」
ランは他人事のように言った。
「いや、オレには銃が支給されている」
律儀に答えたテルに対し、ランが
「なるほど、銃声を響かせるとマズイって言う事か・・・あんた、そう言えばピクニック部だったね」
と、挑発するように言った。
───時間が無い・・・
テルが飛び掛ろうとしたとき、ランが手に持った石を顔面に向かって投げてきた。
顔をかばうようにして立ち止まったテルの隙を突いて、ランが右方向にダッシュした。
「担任のためかい? ボ・ウ・ヤ」
図星を突かれ、頭に血が登ったテルは、ランの後を追った。
暗闇に溶け込むように、二人の姿が消えて行った。
【残り 36人】