BRR(BATTLE ROYALE REQUIEM)
第1部
〜コードネームの反逆者〜
エピローグ「真実を求めて」
「終わったな」
新しい慈恵園を見下ろす丘の上、高野が呟いた。
「あぁ、とりあえず、1人も死なずに済んだな」
暁の顔に安堵の表情はない。
「でも、死んでしまったわ、40人も。それに、坂持先生や兵士たちだって、こんな国でなかったら」
悔しそうに唇を噛む、夕凪。
「その通りだな。前の年も、その前の年も、1950人死んでる。まぁ、いろいろあって1950人死ななくて済んだ年もあるし、時間切れなんかで、1950人以上死んでいる年もあるけどな」
6月に入りようやく緑の季節を迎えた日本アルプスを見上げる。
確かに季節は変わっていく、年月も過ぎていく。しかし、このどうしようもない国は、同じ過ちを繰り返し続けている。
この地域のシンボル的な存在である湖で起こった風が、同じくシンボル的な存在である日本アルプスの山々へと吹き上げてきた。
夕凪の髪が風でゆれる。
「行こう。一応、俺たちは国際手配までされてる犯罪者なんだ。この近くをうろうろしない方がいい」
車のドアに手をかける高野。
「それもそうね」
それぞれの車に乗り込もうとする3人。
「こっちです、刑事さん」
その言葉を聞いた瞬間には、3人とも戦闘態勢に入っていた。
ダッシュボードの上の箱から拳銃を取り出す夕凪。
できれば、戦闘はしたくない。
ここで戦闘になれば、慈恵園に捜査の手がおよぶ危険性もある。戸籍の改ざんをした直後だ。目撃証言を聞かれたことから足がついてしまうことも考えられる。
そうなっては、お終いだ。
かといって、捕まるわけにもいかない。
自分たちの身元がわれれば、大勢の協力者も芋づる式に捕まってしまうことになる。
「まったく、人の声くらい覚えててよね」
聞きなれた声、振り返ると案の定、太田晃の姿があった。
どうやら、彼の悪ふざけだったようだ。
「なによ。そっちこそ、4年以上も、どこで何をやっていたのよ」
晃の性格は知っている夕凪だったが、久々の再会の演出がこれでは文句の1つも言いたくなる。
「まぁ、ちょっとね。そっちこそ、筋肉ばっかりつけてるようじゃあ、誰ももらってくれなくなるよ」
ニヤッと笑いながら言い返す晃。
「久しぶりに会ったっていうのに、どうしてこうなるかな」
ため息をつく暁。隣では、高野が「見ていられない」というように首を左右に振っている。しかし、
「久しぶりね、夕凪」
彼女の登場が場の雰囲気を和ませてくれる。
「ひさしぶりね、アイシャ。あなたもこんなヤツとよく一緒にいられるわね」
はずだったが、4年間たまりにたまったものは、そう簡単には消えないようだ。
「確かに、ロクな生き方はしてきてないけど、夕凪よりはマシな人間である自信はあるよ」
「まぁまぁ、仲良くいこうよ。せっかく、ひさしぶりに集まったわけだし」
見かねた高野が間に入る。
「それもそうね」
「まぁ、今日はこの辺にしとくよ」
場の空気に平穏が戻ったところで、本題が始まる。
「ところで、宮崎さんはどうしたの? 人を呼び出しておいて、自分はいなっていうのは、どうなの」
「楓なら、そっちに連絡した後、ラスティたちに会いに行ったから、晃たちより遅い帰国になるぜ」
「なるほど、『プログラム』の脱走者が公開手配されたって話は聞いたよ。その関係で『国家反逆罪』に問われた人を保護したってことも。こっちも1人連れてきたしね。で、これから、どうするの」
軽い口調とは対照的に、真剣な表情の晃。
暁たちが、作戦の詳細を語る。
「なるほどね。じゃぁ、こっちはこっちのやり方で協力さえてもらうよ。アイシャは、こいつらと一緒の方がいいよね」
「うん、晃がそう言うなら、そうするよ」
少しさびしそうにうなずく。
4人に背を向けると歩き出す晃。
「待ちなさいよ。どうして、そう勝手なの」
「悪いね、夕凪、アイシャ。人とつるむのあんまり好きじゃないんだよ」
その後、5人はそれぞれの任務についた。
§
同刻、大東亜協和国内某所。
「――さんですね」
少女がうなずく。
「私、宮崎楓と申します。今日は――さんについてのお話をしに参りました」
えっ? という表情をうかべる。
「あなたに真実を語りたいという方がいらっしゃいます。お聞きになることをご希望でしたら、こちらまでお越し願えませんでしょうか」
チケットを差し出す。
少し考えた後で、それを受け取った少女は、
「わかりました」
小さくうなずいた。
<第2部へ、つづく>
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